最新記事

連載「転機の日本経済」(1)

量的緩和の功罪

2015年6月22日(月)16時10分

 もちろん、これには大きなコストとリスクがある。それは異常な金融緩和の反動である。金融緩和を止めれば、逆回転が始まるリスクがある。もっと単純に、金融緩和が経済と株式市場に量的にプラスであれば、緩和を縮小あるいは止めれば、その分の効果はなくなるから、現状から見れば、経済は縮小することになる。最大のリスクは、異次元緩和といっても、実際には大規模な量的緩和に過ぎず、量的緩和とは、国債を大量に買うことに過ぎないから、これにより国債市場が破壊されてしまうリスク、あるいは破壊されてしまったことによる将来のリスクシナリオの実現ということなのだが、これは後日議論することにする。

 一番の異次元緩和の功罪とは、悲観を脱却したという、デフレマインド脱却ならぬデプレッションマインド脱却という大きな功績をあげた反面、この功績により、日本経済の問題はこれで解決したかのような錯覚に陥ったことだ。萎縮から抜け出したのは大きなプラスだが、これはいままでが悪すぎただけで、その無駄なものを取り払ったに過ぎず、本質は何も変わっていない。さらに、このショック療法は一度しか効かず、効果は一度きりである。したがって、このまま異次元緩和を続ければ、さらに経済が良くなる、というのは錯覚であり、罪深い誤解である。今後は、異次元緩和をどううまく止めるか、リスクシナリオのダメージを最小限にしながら出口へ向かうか、ということであるにも関わらず、デフレを脱却しインフレを起こすことで、さらに経済が良くなるという論理で、異次元緩和を継続し、これまでの政府の経済政策全体を是認し、さらに進めていくこと、つまり、異常な金融緩和と財政再建をしないことにより、景気を過熱させることで、経済が成長するようにみせること、この路線が定着してしまったことである。

 異次元緩和からインフレが起きないと論理的に抜け出す理屈が立たないこと、日本経済の真の問題を解決するムードが薄れたこと、これが、異次元緩和による日本経済回復による最大の罪なのである。(小幡績・慶應義塾大学ビジネススクール准教授)

*連載第2回「日本の財政問題とギリシャ破綻」はこちら→

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中、関税率を115%引き下げ スイスの閣僚級協議

ワールド

イスラエル系米国人の人質を12日に解放へ、ハマスが

ビジネス

第一生命HD、英キャプラをグループ化 出資比率15

ビジネス

マツダ、今期業績予想の開示見送り 関税影響4月は9
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 6
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 7
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中