社会的弱者を犠牲にしてギリシャは救えない
ヨーロッパの政治と社会の安定のためには債務問題の処方箋を見直す必要がある
生活苦 緊縮で人々が困窮すれば社会が不安定化し元も子もなくなる Alkis Konstantinidis-Reuters
ユーロ圏はこの5年間、緊縮財政と構造改革を金科玉条にして債務問題を解決しようとしてきた。そのため南の「辺縁国」とアイルランドばかりか、EUの「中核国」であるフランスでも、世論の反発が高まっている。
ユーロ圏の指導者たちが原理原則にしがみつけば、ヨーロッパでは社会的な亀裂が深まり、政治的な安定が脅かされるだろう。ギリシャの総選挙で反緊縮の急進左派連合(SYRIZA)が圧勝したのはその一歩にすぎない。緊縮策を見直し、現実的で有益な経済戦略の立案に取り組めば、この流れを変えられる。
もちろん、破壊的なデフォルト(債務不履行)を回避し、投資家と消費者の信認を得るためには財政の持続性が不可欠だ。しかし、緊縮策が受け入れられるのは、福祉に頼らずとも生活でき、長期の失業に陥る心配がないときだけだろう。
何百万人もの労働者、特に就職の当てがない若年層には、財政の持続性よりも切実な問題がある。失業手当が減額されれば、彼らはたちまち困窮する。財政削減が教育に及べば、彼らの子供たちは将来を築くためのスキルを習得できない。
緊縮策による国民の困窮はギリシャでは特に深刻だ。年金の大幅カットで高齢者は尊厳ある老後を送れない。資産を外国に移した富裕層が課税を逃れる一方で、一般市民は過大な税負担にあえぎ、医療は崩壊寸前のありさま。自殺率はうなぎ上りだ。
債権国はこうした現実に目を向けようとしないが、危機的状況にあるのは否めない。IMF欧州局長を務めたレザ・モガダンが先日、成長のための構造改革の確実な実施を条件に、ギリシャの債務の半分を免除すべきだと提案したのもそのためだ。
新しい支援計画が必要
経済を立て直すには財政の持続性より、まず社会の持続性が前提条件になる。教育に人材や予算を投入できず、IT時代に必要なスキルを子供たちに与えられなければ、経済の繁栄は望めない。不平等と貧困が広がり、人々の不満が鬱積すれば極右や極左が支持を伸ばす。そうなれば構造改革の実施は望み薄だ。
人々が生活苦にあえげば、移民と少数派に不満が集中する。経済学者のジョセフ・スティグリッツが指摘するように、ドイツでナチスが台頭したのは失業率が30%に上る状況だったからだ。絶望的な状況に追い込まれた若者が暴力的な衝動に駆られ、テロ組織のプロパガンダに感化される懸念もある。