ヤフーが買収「タンブラー」は何がすごい?
おしゃれでセレブに大人気のブログサービスが切り開くSNS新時代
新たな挑戦 買収発表直後のヤフーのマリッサ・メイヤーCEO(左)とタンブラーのデービッド・カープCEO(5月20日、ニューヨーク) Adrees Latif-Reuters
話題になることで金が儲かるなら、ブログサービスのタンブラーは今頃ウォルマートより大きくなっているはずだ。
何しろタンブラーは、オバマ政権からファッション写真家のテリー・リチャードソンまで、飛び切りクールなセレブやアーティストに愛用されている。スーパースターのジェイ・Zとビヨンセ夫妻は、生後1カ月の娘の写真をタンブラーで公開した(アメリカのスターは子供の「初写真」をゴシップ誌に売ることが多いのだが)。
タンブラーの魅力は、シンプルな使いやすさとデザインの美しさにある。一般的なブログ機能に、SNSの機能が付いているのも特徴だ。つまりツイッターやフェイスブックのように、他人のブログをフォローしたり、自分のブログをフォローしてもらうことができる。
フェイスブックやツイッターと大きく違うのは、アートっぽい雰囲気だ。トップページ1つを取っても、味気ない機能的な画面ではなく、毎日違うアートワークが現れる。あるときは絵本作家ロジャー・デュボアザンの挿絵で、あるときはデンマークの写真家ペア・バク・イェンセンの連作だったりする。「世界中のクリエーターをフォローする」という宣伝文句がぴったりだ。
タンブラーに登録すれば、あなたも「世界のクリエーター」の1人になれる。約5300万のブログは、10代の日記風のものもあれば、映像作家の卵が作ったビデオクリップが主体のものもある。誰もがそこで自分という「ブランド」を構築しようとしている。しかもサービスはすべて無料だ。
いや、無料だった、というべきだろうか。タンブラーは12年5月初旬、初の大規模な有料サービスをスタートさせた。一定の料金を払うとタンブラーのトップページ(月間訪問者数は1億人以上)で、自分のブログを紹介してもらえるサービスだ。
月160億のページビュー
どんなブログサービスやSNSも、規模が拡大するにつれてサービスを有料化したり、広告を増やす必要が出てくる。
タンブラーも例外ではない。これまでに計1億2500万ドル以上の資金を集めてきたが、成長を軌道に乗せるためにその大部分を使い切ってしまった。「みんな(投資家からの)プレッシャーを感じている」と、デービッド・カープCEO(25)は社内の雰囲気について語る。
だがタンブラーは有料化と広告掲載に関しても、ほかとは違う洗練されたスタイルを模索している。カープの腕の見せどころだ。
秀才が集まることで有名な公立のブロンクス科学高校を15歳で中退したカープは、自宅学習の傍ら、MTVの仕掛け人でプロデューサーのフレッド・シーバートの下で働き始めた。コンピュータープログラムの書き方を独学でマスターし、シーバートの紹介でIT企業の最高技術責任者も経験した。
そんなカープがブログに興味を持ったのは07年、19歳のときだった。既にブログは一般的になっていたが、既存のサービスはユーザーに技術的な知識があることを前提にしていた。
もっとシンプルなサービスがどうしてないんだろう。そう思ったカープは自分で作ることにした。こうして誕生したタンブラーはたちまち人気を集め、マンハッタンの小さなオフィスに従業員2人でスタートした会社は、今やエレガントなグラマシー地区に2フロアを借り切る規模にまで拡大した。
ネットベンチャー企業らしく、オフィスには卓球台もあるし、冷蔵庫にはビールも入っている。ただし子供のパーティー会場みたいにはじけた他社の雰囲気とは違って、タンブラーの社内は落ち着いている。
「こいつらはオタクだから」と、11年までオバマ政権のテクノロジー顧問を務めていたアンドルー・マクロフリン副社長は言う。「ビールをがぶ飲みするより、ちょっと笑えるクリップを作っているほうが楽しい連中だ」