最新記事

知っておきたい外資系の流儀

2012年11月13日(火)13時21分
大橋 希(本誌記者)

──テレビ番組の字幕を例に、日本ローカルの文化とグローバル企業の論理のぶつかり合いの話が本に出てくる。そうしたケースは業界を問わずあるのか。

 それは常にある。グローバル企業は本来なら、世界中で同じ製品を売りたい。日本向けの機能をつけるとか、日本語の吹き替えをつけるというのはコストでしかない。すべて英語にして売ることができれば、どれだけコストが下がるか。それは映画だけでなく、いろいろな業界でみられる。ローカライズは商品を各国で売るための最低限の修正で、仕方なくやっている感じ。海外本社は「本社が直接コントロールできないもの」「本社が理解できないもの」は、避ける傾向にある。だからコストも最低限に抑えるのが鉄則だ。

 ファッションや家電、食品などでその国の文化に合った商品を開発し、発売されることもあるが、「なぜそれをやらなくてはいけないのか」と本社を説得するのは結構大変。トップダウン構造のグローバル企業で唯一、支社から意見しなくてはいけない部分だから。

──日本の大企業が研修などで社員をじっくり育てるのと違い、外資系は入ったときから高い能力を求められるイメージがあるが......。

 それは会社によって違う。日本IBMやP&Gなど、内部昇進制がある会社は、新卒で入社して日本支社長までつながる育成ルートがある。それに乗ることができれば、かなりの確率で上に上がっていける。

 日本企業はまだまだ年功序列で、管理職になった40代位でそのときの社内政治なども絡まって、「この人はこのまま」「この人は上に」と選別される。外資系企業はもっと早い20代位から、この人は出世する、しないというのが決まってしまう。だから同じ新卒入社の人でも、違う育て方をされてしまう。

──日本企業よりは成果主義が強い。

 それはボーナスに反映され、評価が高ければ日本企業とは比べものにならないほどの額がもらえる。ベースとなる給与はそれほど変わらないがボーナスの比重が大きいから、給与のアップダウンが激しい。

 ただし厳密な能力主義ではなくて、ボーナスはそれを決定する上司のかなり個人的な感情で決まる。例えばアメリカ人の上司がいて、日本人の部下、アメリカ人の部下がいる。アメリカ人の部下は日本語も下手だし仕事も全然できないが、上司の言うことを聞くし、プライベートでも仲がいい。上司からすれば、かわいいわけです。かたや日本人の部下は仕事はできるが、ちょっと生意気である。こんな場合、ボーナスはアメリカ人部下のほうが高かったりする。人事部でなく、上司が決めるので。

 そのことは自分が管理職になって、前任者から部下のボーナス評価を引き継いだ時に初めて分かる。好き嫌いでこんなに差があるのか......と。日本企業は年功序列が基本だし、上司にそれほどの権限はない。

 上司が外国人だったら、買い物に行く、引越しの手伝いをするといった雑用は全部やってあげたほうがいい。自分のボーナス額に跳ね返っていたんだと、私はこの本の取材をするまで知らなかった。訳のわからない雑用が自分の昇進やボーナスにこんなに関係するなんて! 知っていたら、嫌がらずに買い物にいったかもしれない(笑)。

 理不尽ではあるけれど、これから外資系企業に行く人は、この仕組みをわかっておくととても楽に生きられると思う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾、警戒態勢維持 中国は演習終了 習氏「台湾統一

ビジネス

米新規失業保険申請件数、1.6万件減の19.9万件

ビジネス

医薬品メーカー、米国で350品目値上げ トランプ氏

ビジネス

中国、人民元バスケットのウエート調整 円に代わりウ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 5
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 10
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中