米「輸出主導の景気回復」のウソ
輸出が絶好調なのに喜べないのは、輸入はそれ以上に好調で、赤字は危険レベルを突破しているから
好調の裏で アメリカの2010年の輸出高は前年比17%増を記録したが Mike Segar-Reuters
このところ、アメリカの輸出には明るいニュースが多い。ウォールストリート・ジャーナル紙は先月末、原油価格の高騰や日本の大震災といった外国発のリスクに鑑みて、アメリカが謳歌している「輸出主導の回復」の行く末を慮ったほど。
米中貿易全国委員会も、アメリカの対中輸出が急増しており、バラク・オバマ大統領の打ち出した「対中輸出倍増計画」が早期に達成されそうな勢いだと発表した。さらに、昨年のアメリカの輸出額は前年比17%(2650億ドル)増で、2010年のGDPの伸びの半分を占める、という報告も届いている。
「輸出主導の成長」という表現がアメリカ人のボキャブラリーから消えて、すでに半世紀以上。長年、輸出主導型経済への転換戦略を主張してきた私にとって、これほど嬉しい話はないはずだ。
なのに、喜ぶ気持ちになれないのはなぜだろう。こんなに明るいニュースがすべて真実のはずがないと感じる原因は何だろうか。
保護主義と呼ばれるのが怖いオバマ
大きな理由は、この手のニュースがもう一方の輸入の実状に触れていないことだ。アメリカの貿易赤字は経済危機でいったん減少したものの、過去12カ月間で着実に増加しており、経常赤字は多くのエコノミストが限度と考えるGDPの3%を軽く超えている。つまり、アメリカは輸出が好調であるにもかかわらず、経常赤字が維持不可能な水準にまで膨れ上がるという危機に直面しているようだ。
輸出が増えたのに赤字が増えるというパラドックスの背景には、「輸出のまやかし」がある。国際貿易とグローバル化を推進する現行システムの信奉者は、貿易赤字や輸入の問題を輸出と一緒に論じたがらない。そんなことをすれば、現行システムの根底に流れる理論や前提の信憑性と、現行システムが米経済にマイナスである可能性を指摘されかねないからだ。
その結果、輸入ではなく輸出の話ばかりが強調される。オバマ大統領は保護主義と呼ばれかねない貿易赤字の解消には触れず、輸出倍増ばかり呼びかける。他の現状維持派の人々も、一部の貿易相手国の重商主義的な振る舞いや、それに対する「保護主義的」な対抗策から世間の目を逸らせたいと考えており、輸出の好調さと経済への貢献度を強調する。
もちろん、輸出が倍増するのは素晴らしい話だ。だがその点に注目が集まることで、輸入が輸出以上に増え続けていることへの関心が薄れるとしたら、アメリカが新たな危機に直面する可能性は高い。