最新記事

アメリカ経済

「危機の記憶」に苛まれる米消費者心理

消費者信頼感指数はなぜ下がったのか。好調な消費とのギャップをどう説明するのか。また不況はくるのか

2010年7月28日(水)18時37分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

戻った買い物客 小売り売上高は順調に回復している(5月、マンハッタン中心部に初進出したアウトレット店ノードストローム・ラック) Chip East-Reuters

 アメリカ経済は成長しているのに、国民の間には悲観論が漂っている。アメリカ人は将来を悲観しつつ、買い物を続けているように見える。

 7月27日、全米産業審議会は7月の消費者信頼感指数が2カ月連続で落ち込んだと発表した。さらに悪いことに、向こう6カ月間の経済活動の状況に対する消費者の見通しを示す期待指数も著しく悪化した。

「景気と労働市場への不安が消費者に暗い雲を投げかけており、雇用情勢が改善するまで状況は変わらないだろう」と、全米産業審議会消費者リサーチセンターのリン・フランコ所長は言う。

 とはいえ、新学期前のセールを控えた小売り業界の見通しは悪くない。国際ショッピングセンター協会(ICSC)と証券大手ゴールドマン・サックスが毎週発表する小売りチェーンの週間指標によれば、データがあるなかで直近の週の売上高は前週より0.6%増、前年同期比の3.8%増だった。この9週間のうち6週で、前の週より売り上げが伸びたというデータもある。さらに過去2カ月間の週間売上高は、前年同時期と比べて2.5〜4.2%増えている。

経済成長の減速=不況の前触れではない

 私は8年ほど前に、消費者信頼感指数と実際の消費行動の関係を調べたことがある。その関係は非常にやっかいなものだった。

 消費者の信頼感指数や期待指数は将来の消費行動を予測する目安にはなりえるが、確実な指標ではない。当時、私が指摘したように「過去40年間、不況が訪れる前には必ず、消費者信頼感指数が悪化している(ただし、消費者信頼感指数が悪化しても不況が来ないこともある)」。

 2002年の秋、消費者信頼感指数は4カ月連続で悪化していたが、経済はその後6年以上続く景気拡大期の1年目にあった。理論上は、消費者信頼感指数が悪化しているのに、消費行動と消費額は上向きというケースはありえるし、消費者信頼感指数が上昇しているのに消費が落ち込むこともある。

 だが、アナリストたちが直面している現実の世界では、景気循環にも回復ぶりにも常に波がある。GDP(国内総生産)の四半期ごとの変動を折れ線グラフにすると、直線というよりギザギザに近い。景気拡大期にもGDPの成長率は伸びたり鈍化したりするわけだから、経済成長の減速は必ずしも不況の前触れにはならないのだ(今年の第1四半期には成長率が鈍化したし、第2四半期もその傾向は続くだろう)。

 また、国勢調査局によれば6月の小売売上高は減少したが、それが将来の不安を示唆するわけでもない。小売り業界の月間売上高の推移を時系列でみると、景気拡大期の真っただ中にも、売り上げが減少した月が多くあることがわかる。

リーマンショックを境に消えた楽観論

 週や月、あるいは四半期単位で数値に波があるのは、今回の景気循環に限ったことではない。だが、そうしたデータの「解釈」については、今回の景気循環に特有の傾向があるかもしれない。

 私たちの大半は、長期的な景気循環の時代に成人になった。全米経済研究所が示すように、過去3回の景気拡大期はそれぞれ、108カ月、128カ月、81カ月続いた。

 1982年11月から2007年12月の約25年間で、経済が収縮したのは16カ月だけ。だからアメリカ人は、不況が2年近く続く、経済が年率6%で収縮する、何カ月にも渡って毎月、70万人の人員が削減されるなどという事態は、ありえないことだと信じていた。

 しかし、08〜09年の衝撃的な経済危機を経験したことで、私たちは変わった。最悪の事態が実際に起こりうるのだという思いを消すことはもうできない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏10月銀行融資、企業向けは伸び横ばい 家計

ビジネス

成長型経済へ、26年度は物価上昇を適切に反映した予

ビジネス

次年度国債発行、30年債の優先減額求める声=財務省

ビジネス

韓国ネイバー傘下企業、国内最大の仮想通貨取引所を買
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中