「危機の記憶」に苛まれる米消費者心理
消費者信頼感指数はなぜ下がったのか。好調な消費とのギャップをどう説明するのか。また不況はくるのか
戻った買い物客 小売り売上高は順調に回復している(5月、マンハッタン中心部に初進出したアウトレット店ノードストローム・ラック) Chip East-Reuters
アメリカ経済は成長しているのに、国民の間には悲観論が漂っている。アメリカ人は将来を悲観しつつ、買い物を続けているように見える。
7月27日、全米産業審議会は7月の消費者信頼感指数が2カ月連続で落ち込んだと発表した。さらに悪いことに、向こう6カ月間の経済活動の状況に対する消費者の見通しを示す期待指数も著しく悪化した。
「景気と労働市場への不安が消費者に暗い雲を投げかけており、雇用情勢が改善するまで状況は変わらないだろう」と、全米産業審議会消費者リサーチセンターのリン・フランコ所長は言う。
とはいえ、新学期前のセールを控えた小売り業界の見通しは悪くない。国際ショッピングセンター協会(ICSC)と証券大手ゴールドマン・サックスが毎週発表する小売りチェーンの週間指標によれば、データがあるなかで直近の週の売上高は前週より0.6%増、前年同期比の3.8%増だった。この9週間のうち6週で、前の週より売り上げが伸びたというデータもある。さらに過去2カ月間の週間売上高は、前年同時期と比べて2.5〜4.2%増えている。
経済成長の減速=不況の前触れではない
私は8年ほど前に、消費者信頼感指数と実際の消費行動の関係を調べたことがある。その関係は非常にやっかいなものだった。
消費者の信頼感指数や期待指数は将来の消費行動を予測する目安にはなりえるが、確実な指標ではない。当時、私が指摘したように「過去40年間、不況が訪れる前には必ず、消費者信頼感指数が悪化している(ただし、消費者信頼感指数が悪化しても不況が来ないこともある)」。
2002年の秋、消費者信頼感指数は4カ月連続で悪化していたが、経済はその後6年以上続く景気拡大期の1年目にあった。理論上は、消費者信頼感指数が悪化しているのに、消費行動と消費額は上向きというケースはありえるし、消費者信頼感指数が上昇しているのに消費が落ち込むこともある。
だが、アナリストたちが直面している現実の世界では、景気循環にも回復ぶりにも常に波がある。GDP(国内総生産)の四半期ごとの変動を折れ線グラフにすると、直線というよりギザギザに近い。景気拡大期にもGDPの成長率は伸びたり鈍化したりするわけだから、経済成長の減速は必ずしも不況の前触れにはならないのだ(今年の第1四半期には成長率が鈍化したし、第2四半期もその傾向は続くだろう)。
また、国勢調査局によれば6月の小売売上高は減少したが、それが将来の不安を示唆するわけでもない。小売り業界の月間売上高の推移を時系列でみると、景気拡大期の真っただ中にも、売り上げが減少した月が多くあることがわかる。
リーマンショックを境に消えた楽観論
週や月、あるいは四半期単位で数値に波があるのは、今回の景気循環に限ったことではない。だが、そうしたデータの「解釈」については、今回の景気循環に特有の傾向があるかもしれない。
私たちの大半は、長期的な景気循環の時代に成人になった。全米経済研究所が示すように、過去3回の景気拡大期はそれぞれ、108カ月、128カ月、81カ月続いた。
1982年11月から2007年12月の約25年間で、経済が収縮したのは16カ月だけ。だからアメリカ人は、不況が2年近く続く、経済が年率6%で収縮する、何カ月にも渡って毎月、70万人の人員が削減されるなどという事態は、ありえないことだと信じていた。
しかし、08〜09年の衝撃的な経済危機を経験したことで、私たちは変わった。最悪の事態が実際に起こりうるのだという思いを消すことはもうできない。