最新記事

米金融

復活ヘッジファンドは安定志向

リーマンショックという絶体絶命のピンチを乗り越えたヘッジファンド業界は、以前の派手さが消えて堅実に変身しつつある

2010年3月8日(月)17時56分
バートン・ビッグズ(ヘッジファンド「トラクシス・パートナーズ」マネジングパートナー)

 08年に金融界が深刻な危機に陥ったとき、ヘッジファンドはなりふり構わぬ自己防衛策に打って出た。なにしろ巨額の損失が噂されていたし、実際に数多くのファンドが閉鎖に追い込まれていた。

 大手の有力ヘッジファンドの中には、(少なくとも一時的に)出資者の解約に厳しい制約を課した業者もあった。運用成績を改善するために、赤字の投資対象をファンド全体と「別勘定」に移す業者もあった。

 こうした行動は、投資家の怒りを買った。ヘッジファンド・ビジネスの終焉も予測されていた。

 しかし2010年の今、ヘッジファンド業界は死んでいない。いくらか年を取り、肉付きがよくなっただけだ。

 実際、「肉付きのいい」ファンドの強みは際だっている。最近15年間の運用成績を見ると、最も高い成績を残しているのは、最大手クラスのファンドだ(もっともヘッジファンドには厳しい情報開示義務が課されていないので、数字は極めて不透明なのだが)。

 運用資産40億ドル以上のファンドは、毎年15%(手数料を差し引いた後の複利ベースの運用利回り)で資産を増やしている。一方、現存する小規模のファンドの運用成績は12%。しかし、破綻したファンドも計算に入れると、この数字は6%まで下がる。

リターンが小さくても安全第一

 昔よりも「安全運転」志向のファンドが好まれる傾向も見えてきた。調査会社エンピリカル・リサーチ・パートナーズは、現存の最大手クラスのヘッジファンドの過半数について月次運用成績の推移を調査。運用資産の増減が激しいグループと増減が穏やかなグループの2つに分類した。

 その上で過去10年の数字を見ると、増減が激しいグループは年平均15%の利回りを記録した半面、すべての月のうち34%で資産を減らしていた。増減が穏やかなグループは、年平均の利回りは11%にとどまったが、資産を減らした月も11%だった。いまヘッジファンドに流れ込んでいる新規資金のほとんどは、利回りが小さい代わりに運用成績が安定しているファンドに投資されている。

 意外な結果ではない。ヘッジファンドの主たる顧客は、ヘッジファンドこそ弱気相場で資産を増やすのに打ってつけの投資対象だと考えた富裕な個人投資家だった。しかしそうした富裕な個人投資家は、ハイリスク・ハイリターンのファンドに手を出した挙げ句、金融危機で大きな打撃を被り、今も痛手から立ち直れずにいる。

 一方、世界の年金基金や大学基金、財団基金などの間では、ここに来てヘッジファンドへの投資を増やす動きが見え始めている。この2年間の投資利回りを見ると、ヘッジファンドがほかの大半の金融商品より好成績を残していることは事実なのだ(金融大手モルガン・スタンレーによれば、ヘッジファンドの利回りの平均が6%だったのに対し、例えばアメリカの代表的な株価指標S&P500はマイナス20%)。

大手ファンドの独り勝ち

 ただし、基金の運用担当者は投資先のヘッジファンドを厳しく選別している。ヘッジファンド・ビジネスが日の出の勢いだった時期は新興のファンドがもてはやされたが、いまその類いのファンドにはほとんど資金が流れていない。中規模のファンドへの投資もそれほど増えていない。

 現在最も活発に資金が流れ込んでいるのは、運用成績が安定している巨大ヘッジファンドだ。この流れが続けば、ヘッジファンドがもっと堅実なビジネスになるかもしれない。ヘッジファンドの新しい顧客である基金運用担当者は、スキーのモーグル競技のようにこぶだらけのスロープを滑り降りるより、なだらかなコースをゆっくり滑ることを好む傾向が強い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

欧州委、内燃エンジン車販売禁止撤回提案へ 独メーカ

ワールド

タイ、カンボジアへの燃料輸出遮断を検討 米仲介後も

ワールド

次期米大統領専用機、納入再び遅延 当初予定から4年

ワールド

米南方軍司令官が退任、「麻薬密輸船」攻撃巡りヘグセ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中