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2011.12.26

TPPアメリカの本音と思惑

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日本参加で重要度アップ

 だが成功するまでには数々の障害がある。まず、中国だ。「中国が参加しないならどんな合意もそれほど意味がない」と、ADBのアジズは言う。しかし中国の一部専門家は、TPPは中国をアジア貿易から締め出し、アメリカを利する試みだとして警戒してきた。

 確かに中国には国有企業が多く、法制度は脆弱で知的財産の保護も不十分だ。従ってTPPのような「レベルの高い」貿易協定に参加するのは時期尚早だ──そんな主張が出てきてもおかしくない(とはいえ、それなら社会主義に市場経済を取り入れたベトナムが「勧誘」されたのはおかしいと、矛盾を指摘する声もある)。

 これに対して、TPPの目的はむしろ中国を取り込み、変革を促すことだという真逆の見方もある。TPPは「レベルの高い」貿易や経済慣行の枠組みに中国をおびき寄せるための仕掛けだというのだ。

 両方の側面があると言うのは、アメリカの保守系シンクタンクのヘリテージ財団に所属するデレク・シザーズ。TPPには「中国をつぶせ」と「中国を変えよう」という2つの要素が混在しているという。1つ目は中国を排除すること、2つ目は中国にビジネス慣行を変えさせることだ。

 興味深いことに、中国の胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席はTPP構想に明確な関心は示していないものの、公然と切り捨ててもいない。APEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議で訪れたハワイでも財界首脳らに対し、「中国は東アジア自由貿易圏やアジアでの全面的な経済協力、TPPを基盤にしたアジア太平洋経済の地域統合という目標を支持している」と語っている。

 TPP締結の障害になりそうなのは、もちろん中国だけではない。参加対象となる国は文化的背景も経済発展の度合いも大きく異なる。何しろ共産主義の貧困国(ベトナム)からリッチな都市国家(シンガポール)、それに世界最大の経済大国(アメリカ)までいるのだ。

 これでは共通ルールを作るなんて不可能だと思われても仕方がない。ホノルルで大枠合意を発表したオバマの声明がひどく具体性を欠いていたのもそのためだ。

 例えば製薬会社の知的財産保護については、交渉国の間で大きな意見の隔たりがある。アメリカの製薬業界は保護強化を求めてロビー活動を展開してきた。だがより貧しい国々は、安価で薬が作れなければ国民の命が脅かされると懸念している。

 国有企業の活動規制も一筋縄ではいかない。ベトナムやマレーシアなど一部の交渉国では、国有企業が幅を利かせている。市場自由主義の牙城であるアメリカでさえ、08年のリーマン・ショック後は自動車や金融業界で政府の関与を増やした。公共事業で国産品の購入を義務付けたバイ・アメリカン条項も、TPPに引っ掛かる恐れがある。

 TPPには、こんなパラドックスがある。普通に交渉が進めば、各国ともいくつかの分野で貿易自由化の例外扱いを求めるだろう。これを認めれば最終的な合意は骨抜きになってしまう。逆に「レベルの高い」合意にこだわれば、一部の国が脱落してしまい、やはりTPPの効果を薄めることになる。

 注目は日本の動きだろう。アメリカは日本がTPPへの参加に関心を示したことを、公式に歓迎している。当然かもしれない。現在の9カ国は寄せ集めのようなもの。世界第3位の経済規模を持つ日本が参加すれば、TPPの信頼性も重要性もさらに高まる。

 日本国内では、アメリカが荒々しく踏み込んできて一方的に自らの要求を押し付けるのではないかと、大きな不安の声が上がっている。こうした懸念の一部は、80年代と90年代の苦い経験に起因する。当時深刻化した貿易不均衡を是正するため、日本はアメリカが突き付けた内需拡大・市場開放の要求を一方的にのまされた経緯がある。

 だがTPPは多国間交渉であり、交渉国が強気の態度に出やすい2国間交渉とは本質的に違う。アメリカはAPECなど公の場で強い意気込みを示しているだけに、合意実現のためには一定の譲歩を余儀なくされるだろう。交渉が決裂すれば、メンツがつぶれるだけでなく国際的な信用まで失ってしまうからだ。

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