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2011.12.26

TPPアメリカの本音と思惑

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「ウォール街占拠デモ」を全米に拡大させた怒りの大きな要因は、グローバル化が中流層を痛めつけているという認識だ。単純化すれば、自由貿易は大企業を潤わせ、中流層を苦しめるというイメージが定着している。こういう状況下でTPPを声高に訴えることは、政治家にとって得策でない。

 では、オバマはなぜ、猛烈な逆風の中で──しかも、再選を目指す大統領選を来年に控えたこの時期に──TPPを推進するのか。理由は複数ある。

 第1に、オバマ自身も述べているように、アジアは「動きがある場所」だからだ。ヨーロッパが経済危機に直面し、アメリカも景気が低迷し続ける恐れがある以上、アメリカ企業としては成長著しいアジア市場への参入を最大限拡大したい。

 アジア開発銀行(ADB)の黒田東彦(はるひこ)総裁によれば、アジア・太平洋地域の途上国の経済成長率は、今年も来年も共に7・5%に達する見通しだ。

 世界を見渡しても、アジアほど成長見通しが明るい地域はない。向こう5年間でアメリカの輸出を倍増させるというオバマの公約を達成しようと思えば、拡大するアジアの中流層の消費に大きく頼らざるを得ない。

 米政府がアジア市場をこじ開けることに熱心な理由は、ここにある。ただし、協定の内容を公平なものにし、しかもアメリカの雇用が破壊されるという印象を世論に与えないようにしなくてはならない。

 オバマは、韓国とのFTAを労働組合が支持していることを強調。平等な競争環境さえ整えば、アメリカの企業や労働者は十分に競争力を発揮できると、12日にハワイでの演説で述べた。

「誰もが共通のルールの下でプレーするシステムを築ければ、アメリカの企業と労働者は大きな成功を収める......ほかの国々が公正にプレーする限り、アメリカは市場を閉ざさない」

 アメリカがTPPを推進する第2の理由は、(第1の理由とも関係しているが)この10年間、アメリカがイラクとアフガニスタンでの戦争に力を割かれるあまり、アジアで存在感を弱めてしまったという認識にある。

 安全保障の面でも経済の面でも、アジア重視の姿勢を再び強める必要があると、オバマ政権はようやく認識し始めた。ヒラリー・クリントン国務長官は外交専門誌フォーリン・ポリシーの11月号に「アメリカの太平洋の世紀」と題した論文を寄稿し、政権の方針を詳しく説明した。

 シーレーン(海上交通路)の確保、領土紛争の仲裁、海賊行為やテロなど「非通常型」の脅威との戦いなど、オバマ政権は安全保障の側面に強い関心を寄せているが、この論文では経済的な側面も強調している。

「アジア市場が開かれれば、投資、貿易、さらに最先端技術へのアクセスといった面で、アメリカにとってかつてないチャンスが開ける」と、クリントンは書いている。「アメリカの景気回復は、輸出の堅調さと、アジアの巨大な消費者基盤の拡大をアメリカ企業が生かせるかどうかに懸かっている」

 おそらく中国を念頭に、クリントンは「開放性と自由と透明性と公正さ」を備えた仕組みの重要性を指摘。また、この地域で領土紛争の当事国になっておらず、過去60年にわたり地域の安定に尽くしてきた唯一の大国として、アメリカが大きな役割を果たせると主張している。

 TPPは、オバマ政権のアジア戦略の経済面と安全保障面が交差する政策テーマだ。アメリカは通常の通商協定で満足せず、もっと広範なルールを作ろうとしているように見える。「WTO(世界貿易機関)2・0」とでも呼ぶべき本格的な仕組みを目指しているのかもしれない。

 ADBのイワン・アジズ地域経済統合室長は、TPPは「国境の向こう側」の問題を正す「A級」の合意だと言う。

 例えばTPPには、環境や労働規制の調整、知的財産の保護、政府調達方法の共通化など、外国企業の待遇を平等に確保するルールが盛り込まれる。一方で国有企業は低コストで資金調達ができたり、市場が保護されている場合が多いから、そこにもルールが設けられるはずだ。

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