最新記事

EUはドアを閉ざさない

岐路に立つEU

リスボン条約発効、EU大統領誕生で
政治も統合した「欧州国家」に
近づくのか

2009.10.23

ニューストピックス

EUはドアを閉ざさない

来年1月に2カ国が新たに加盟。市民の不満を押し切ってEUが拡大を続ける真の理由

2009年10月23日(金)12時57分
アンドルー・モラブチック(プリンストン大学EU研究センター所長)[2009年3月11日号掲載]

 東欧の国々で「反ヨーロッパ」感情が高まろうと、フランスとオランダの国民が欧州憲法にノーを突きつけようと関係ない。EU(欧州連合)は、次の一歩を踏み出そうとしている。

 欧州委員会は9月末、来年1月にルーマニアとブルガリアのEU加盟を認める方針を再確認した。これでEUは、27カ国に拡大することになる。

 しかし、歓迎ムードには程遠い。EU諸国の国民や有識者の間では、加盟国をこれ以上増やすことに否定的な意見が強い。ドイツとフランスでは、国民の3分の2近くがEU拡大に反対。スウェーデン、イタリア、イギリスでも半数近くの国民が異を唱えている。

 昨年、フランスとオランダの国民投票で欧州憲法条約の批准が否決されたのは、条約の中身が問題だったというより、拡大し続けるEUに対する国民の抵抗感の高まりが原因だった。専門家が「拡大疲れ」と呼ぶ状況が生まれているのだ。

 04年に東欧などの10カ国が加盟したのに続いてルーマニアとブルガリアが加われば、半世紀前に始まった「ヨーロッパ」の漸進的な拡大プロセスは、ついにクライマックスを迎える――そう思っている人は多いだろう。

 確かに、EUは地理的に大きく拡大し、人口は4億6000万人を突破した。GDP(国内総生産)もアメリカを上回るまでになった。もう十分だと、ほとんどのヨーロッパ人は思っている。そろそろドアを閉ざすべきだ、と。

 しかし、ドアが閉ざされることはない。来年1月のルーマニアとブルガリアの加盟は、壮大な「ヨーロッパの実験」の序章にすぎない。不法移民問題や組織犯罪の増加に不安をいだく世論を恐れて、政治家が本当のことをはっきり言っていないだけだ。

新加盟国は落ちこぼれ?

 加盟国の増加はまだ続く。今回の2カ国の次には、クロアチアが控えている。マケドニア、セルビア、モンテネグロ、アルバニアがその後に待っている。セルビアからの独立をめざしているコソボも、いずれは候補になるかもしれない。しかもEU諸国の首脳は昨年、トルコとの加盟交渉開始を全会一致で承認している。EU拡大の終着点はまだ見えない。

 今後の道のりは平坦でない。今回の2カ国の加盟に伴う問題点が、前途の多難さを浮き彫りにしている。

 加盟後のルーマニアとブルガリアは、域内の最貧国になる。国民1人当たりのGDPは、EU平均の3分の1にも満たない。両国はEUに依存せざるをえないと、ルーベン大学(ベルギー)の経済学者イード・ニケーズは予測する。「ブルガリアは落ちこぼれて、長期間にわたってEUに援助を求め続けるだろう」

 ルーマニアとブルガリアがEUのルールを守るのは無理だと指摘する人たちもいる。環境保護や食品衛生などすべての分野で、両国は必要な法規制を導入済みだと、欧州委員会はお墨つきを与えている。だが、「EUのルールに従っているのは書類上だけ」ではないかと、欧州政策研究センター(ブリュッセル)のゲルガナ・ヌチェワは疑問を呈する。「(ルールを)本当に守っているかどうかなんて知りようがない」

 しかも、両国には汚職と犯罪が蔓延している。国際的な汚職監視団体「トランスペアレンシー・インターナショナル」の腐敗度ランキングによれば、ブルガリアはコロンビアと同順位。ルーマニアは、汚職の横行で悪名高い中国やエジプト、メキシコよりも低い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

情報BOX:G7、緊急石油備蓄の放出を検討 各国の

ワールド

仏、地中海・紅海へ海軍艦艇約12隻を派遣 同盟国防

ビジネス

ECB年内に利上げ観測 原油高騰でスイス、スウェー

ワールド

トルコ領空にイラン弾道ミサイル、NATOが迎撃 負
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    ダイヤモンドのような「ふくらはぎ」を鍛える最短ルートとは?...スクワットの真実
  • 4
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 5
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 6
    なぜ脳は、日本的「美」に反応する? 欧米の美とは異…
  • 7
    「溶けた金属のよう...」 ヨセミテ国立公園で「激レ…
  • 8
    保険料を支払うには収入が少なすぎる...中国、進まぬ…
  • 9
    プーチンに迫る9月総選挙の暗雲
  • 10
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 6
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 7
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 8
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 9
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中