最新記事

素晴らしきJAPAN本の世界

外国人作家が愛した
日本

旅行記からSFまで――新視点で
読む 知られざるこの国の形

2009.08.07

ニューストピックス

素晴らしきJAPAN本の世界

外国人作家がとらえた「日本人の知らない日本」とは

2009年8月7日(金)12時59分
デボラ・ホジソン

(左から)『さゆり』(Memoirs of a Geisha)、『ライジング・サン』(Rising Sun)、『浮世の画家』(An Artist of the Floating World)

 日本を描いた外国の本は、目の見えない男たちがゾウの体を手で探っているようなものかもしれない。ある男はザラついた脇腹に触れる。別の男はしなやかなしっぽをつかみ、また別の男は鋭い牙に触り......。その結果、それぞれがまったく異なるゾウのイメージをいだくことになる。
 
 それと同じように、100年以上前から多くの外国人作家が日本のさまざまな面に目を向け、独自の視点からこの国の魅力を語ってきた。スポーツの分野に鋭く切り込んだ『和をもって日本となす』(邦訳・角川文庫)のロバート・ホワイティングもその一人。ほかにも戦争やビジネスから、テクノロジー、天皇制、建築まで、ありとあらゆる切り口の日本論が外国人の手で生み出されてきた。

 それぞれの本が少しずつ、日本という複雑で矛盾だらけのゾウに対する理解を深めてくれる。
 日本をテーマにした小説が提示するイメージのなかには、時代を超えて受け継がれるものもある。日本が外国に門戸を開いた19世紀後半は、「ジャポニスム」が欧米を席巻した時代だった。

 フランス人作家ピーエル・ロティは小説『お菊さん』を発表。それをアメリカ人のジョン・ルーサー・ロングが雑誌向けに脚色した作品は、プッチーニの有名なオペラ『蝶々夫人』の原作になった。
 物語の題材として「ゲイシャの世界」に引かれる作家は現代にもいる。97年に出版されたアーサー・ゴールデンの『さゆり』(文春文庫)はアメリカだけで400万部のセールスを記録。年内には『さゆり』を原作にしたハリウッド映画も公開される。

経済成長で注目の的に

 『さゆり』は1930年代の京都を舞台に、気丈な新人芸妓さゆりがいじめにあいながらも、売れっ子に成長する姿を描き、一般読者と批評家の心をつかんだ。「きわめて閉鎖的で、異質な世界がこれほど自然な説得力をもつことはまれだ」と、ニューヨーカー誌は絶賛している。

 小説のテーマは時間を超越するが、創作の動機や世間の評価は特定の時代背景と切っても切れない関係にある。第二次大戦終結から20年もすると、欧米では日本に対する新たな関心が高まった。敗戦を乗り越えて奇跡的な経済成長をなし遂げた日本を見て、誰もがその「秘密」を知りたがったのだ。
 75年に発表されたジェームズ・クラベルの『将軍』(阪急コミュニケーションズ)は、まさに時流に乗った作品だった。戦国末期を舞台に「サムライ魂」を深く掘り下げたこの作品の魅力を、批評家はこぞって賞賛した。

「(クラベルは)未知の世界へ読者を連れだし、刺激と知識と疑問をほぼ同時に提示する」と、ニューヨーク・タイムズ・ブック・レビュー紙は論じている。

 16世紀末の日本に漂着した実在のイギリス人航海士をモデルにした『将軍』は、卓越したプロットと語り口を武器に、1000ページを超える長編ながら全世界で1500万人以上の読者を獲得。80年に製作されたテレビシリーズは1億2000万人が見た。当時のニューズウィークは、その影響で「ショーグン・ブーム」が巻き起こったと伝えている。「バーでは酒が売り切れ、ブティックでは着物が飛ぶように売れている」

 クラベルは東洋文化を欧米に伝えようと、封建時代の身分制から旧暦、三味線の形まで細かく説明している。だが、重要なのは主人公ブラックソーンの精神的な成長だ。最初のうちは風呂やおじぎといった生活習慣に疑問をいだくが、しだいに日本独特の「名誉と道徳」の精神を理解していく。

 初めて切腹を目の当たりにして、ブラックソーンは自問する。「こいつらは何者だ? これは勇気か、それとも狂気か?」。それでも、数百ページ後に愛する女が自刃する姿を見たときには、そこまでしなければならないことに深い嫌悪を覚えながら、「理解し、敬意すらいだいた」。

 92年には、もっとシニカルな視点で日本を描いた作品が登場した。ベストセラー作家マイケル・クライトンの『ライジング・サン』(ハヤカワ文庫)は、日本のバブル経済絶頂期を背景にした犯罪サスペンスだ。

 日本企業がアメリカの製造業を衰退に追いやり、不動産を買いあさっていた時期を舞台にしたこの本のメッセージは、ずばり「日本人を警戒せよ」。作者にとっては、こちらを強調するほうがストーリーよりずっと重要だったらしい。

 無気味なほど異質な日本人の姿と奇妙な性的趣味、予測しがたい行動、そしてビジネスに対する貪欲な姿勢――『ライジング・サン』のどのぺージを開いても、こうした日本観が支配している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EU首脳、米中との競争にらみ対策協議 競争力維持へ

ビジネス

トランプ政権、対中テック規制を棚上げ 米中首脳会談

ビジネス

仏サノフィ、ハドソンCEOを解任 後任に独メルクの

ビジネス

英GDP、第4四半期は前期比0.1%増 通年は1.
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 5
    一体なぜ? 中国でハリー・ポッターの「あの悪役」が…
  • 6
    【独自取材】「氷上のシルクロード」を目指す中国、…
  • 7
    あなたの隣に「軍事用ヒト型ロボット」が来る日
  • 8
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 9
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 10
    まさに「灯台下暗し」...九州大学の研究チームが「大…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中