コラム

白い頭巾を脱いだ人々がまき散らす、アメリカの「新たな伝染病」(パックン)

2021年07月27日(火)18時09分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
白人至上主義者(風刺画)

©2021 ROGERS-ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<白人至上主義的な人々が「ホワイト・ウォッシュ」された教科書を押し付け、自由な歴史教育を妨げている>

円錐形の白い頭巾。紛れもなく白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)のシンボルだ。数百万人の会員を誇った100年前のピーク時と比べると少ないが、いまだに数千人がこの頭巾をかぶる。新型コロナウイルス予防のため、同じ保守系の白人があんなに顔を隠すのを嫌がっているのに......。

手にしているのはWhitewashed history(ごまかした歴史)の本。もともとwhitewashは白い塗料を塗るという意味だが、この「教科書」の内容は童話の定番の締めのせりふでアメリカ史の汚点をまさに「白く」塗りつぶそうとしているようだ。

しかし、背後のつるされた人が本当の歴史(actual history)の残酷さを物語っている。奴隷がアフリカからアメリカ大陸に初めて連れてこられた1619年から250年近く奴隷制度は続いた。南北戦争後に「解放」された黒人はそれから100年間「リンチ」、つまり超法規的な死刑によって殺され続けた。

その犠牲者は数千人に上るという。公民権運動以降、リンチはほとんどなくなったが、今でも多くの黒人が警察に殺されている。20~35歳の黒人男性に一番多い死因の1つは警察による暴力だという。「警殺」と改名してもいいほどだ。

このほかに、黒人に不動産を買わせない。お金も貸さない。投票させない。医療サービスを与えない。白人より厳しい量刑を科す。よりひどい条件でより安い賃金で働かせる。などなど、黒人を苦しませる法律、条例、規制、規範の存在はアメリカの恥でもあり、真実でもある。

しかし、学校の先生がその事実について自由に教えることを、アメリカの保守派は許さない。共和党の政治家たちは、全米の半数以上の州で、人種差別についての指導を制限する法案を提出し、11もの州で既に可決させている。

例えば、制度的人種差別を考えるCritical Race Theory(批判的人種理論)の教育を禁じるアリゾナ州の新法は5000ドルの罰金を伴う厳しいもの。一方、白人を美化する歴史はいくらでも教えていい。「アメリカに制度的な差別はない!」と主張する共和党自身が差別的な制度を作っているのは実に皮肉だ。

100年前にもKKKは同じように教育内容の制限を推進した。今回は誰も円錐形の頭巾をかぶっていない。むしろ保守系メディアに堂々と出て歴史修正の思想を勢いよく広めている。そしてどうやら、この病も顔を隠さないほうが感染拡大するようだ。

ポイント

WHITE PEOPLE TREATED BLACK PEOPLE WITH RESPECT AND THEY ALL LIVED HAPPILY EVER AFTER!
白人は黒人に尊敬の念を持って接し、両者は末永く幸せに暮らしましたとさ!

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏の書簡、近くイランに到着=外相

ビジネス

英、決済規制当局を廃止 金融監督機構改革で企業の負

ワールド

ロシア「米からの報告待つ」、ウクライナ停戦案にコメ

ビジネス

ユーロ圏インフレ、貿易・防衛ショックで増幅リスク=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 3
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「腸の不調」の原因とは?
  • 4
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 5
    スイスで「駅弁」が完売! 欧州で日常になった日本食、…
  • 6
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 7
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 8
    トランプ=マスク独裁は許さない── 米政界左派の重鎮…
  • 9
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 10
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 4
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 5
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 6
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 7
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 10
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story