コラム

さよなら、奴隷貿易の生みの親だった「英雄」コロンブス(パックン)

2020年11月07日(土)11時00分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

©2020 ROGERS-ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<賢明で勇敢な存在としてアメリカの学校やメディアが伝えてきたコロンブスは、2020年を境に残忍さと非人道の象徴に>

「いい国つくろう、鎌倉幕府」。歴史を覚えるために、この語呂合わせを無数の日本人が暗記している。結局「鎌倉幕府成立は1192年じゃなかった」ってことに、多少のショックを覚えた人も多いけど。

アメリカには語呂合わせはないが、わが国の英雄クリストファー・コロンブスがアメリカ大陸を発見した年を覚えるために、この風刺画に登場するポエムを暗記する人は多い。結局、「アメリカを発見していない」「コロンブスは英雄じゃなかった」ってことに、大変なショックを覚える人も多いけど。

In fourteen hundred ninety-two, Columbus sailed the ocean blue(1492年に、コロンブスは青い海を航海した)。He had three ships and left from Spain, He sailed through sunshine, wind and rain(3隻の船でスペインから出発した。晴れの日も、雨や風の日も航海した)。ここまでが本当のポエムの書き出し。まあ、事実だね。

最近まではアメリカの学校やメディアでコロンブスの話は美談として伝えられていた。このポエムがその代表例。賢明で勇敢なコロンブスがバハマ諸島にたどり着き、親切なアラワク族に出会うことや、それからスペインに金を持ち帰るために繰り返し航海したことがつづってある。

書いていないのは、コロンブスが新大陸に上陸したその日に先住民を捕まえ、奴隷にすることを命じたこと。また、コロンブスが「売れるだけの奴隷を送ろう!」と自ら目標を設定し、新世界の奴隷貿易の生みの親となったこと。

金も狙いの1つだったが、その採掘作業もまた先住民に強制していた。採掘量が足りない人は手の切断で罰せられた。結局コロンブスが始めたスペインによる残酷な支配と彼らによってもたらされた感染症によって、25万人もいた先住民は数十年でほぼ絶滅したといわれる。これが元の詩に登場しない事実。

そこでこの風刺画にはオリジナルの詞が加えられている。His exploits were retold with pride, ignoring native genocide(先住民の大虐殺は無視され、彼の功績は誇り高く語られた)と、実際の歴史を表現して、現代人に呼び掛ける。The truth is now revealed for all, so let the racist statues fall!(真実はみんなに明かされた。人種差別的な銅像よ、倒れろ!)。

黒人の権利を訴える運動が高まった今年、かつて南北戦争でアメリカの奴隷制度を維持するために戦った南軍の将軍の銅像と共に、コロンブスの像も各地でデモ隊に引き倒された。オハイオ州にあるコロンブスにちなんで名付けられたコロンバス市でも彼の銅像が撤去された! ま、賢明で勇敢から、残忍で非人道的へと「コロンブス」というイメージが崩れた時代に、実物のコロンブス像も倒されて当然かもしれない。

<2020年11月10日号掲載>

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

前大統領に懲役10年求刑、非常戒厳後の捜査妨害など

ワールド

中国、米防衛企業20社などに制裁 台湾への武器売却

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25

ビジネス

タイ中銀、バーツの変動抑制へ「大規模介入」 資本流
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story