コラム

もし戦時の米大統領がトランプのように振る舞ったら......(パックン)

2020年04月23日(木)16時30分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

If Trump Were Really a Wartime President / (c)2020 ROGERS-ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<もし南北戦争でリンカーンが Let the states fight it out(州たちの戦いに任せよう!)なんて言ったら笑えるよね!>

新型コロナウイルスとの戦いにおいてアメリカの最高司令官となるドナルド・トランプ大統領は「戦時の大統領」と自ら名乗っている。今回の風刺画は If all wartime Presidents acted like Trump...(もし戦時の大統領がトランプのように振る舞ったら...)という、まるでコントのような設定を提供している。トランプと歴代大統領のセリフを交ぜてみるという、僕ら芸人が大好きな「もしも」シリーズだ!

まず、トランプは4月初めに We're a backup(われわれは支援者だ)と言い、戦いの責任は連邦政府ではなく各州にあると主張した。しかも、1日で800人近くが亡くなっているときにニューヨーク州が医療用品や人工呼吸器の「支援」を求めると、準備不足の「クレーマー」だとトランプはけなして片付けた。もしも南北戦争のときに、エイブラハム・リンカーン大統領(左)が中央政府の介入を止め、Let the states fight it out(州たちの戦いに任せよう!)と言ってしまったら笑えるよね! 実際に州と州の戦いが南北戦争だし!

また、トランプ政権は新型コロナウイルスを like a mild flu(軽いインフルエンザのようなもの)として、その脅威をたびたび軽視してきた。結果、政府の対策も国民の対応も大幅に遅れ、被害規模が拡大したとみられる。もしも、こんな楽観的過ぎる発言を、第1次大戦時のウッドロー・ウィルソン大統領(中)がしたら大受けだろう。「全ての戦争を終わらせるための戦争は、軽いインフルエンザみたいなものだろう」なんてね! 実際にあの頃にはやった「スペイン風邪」というインフルエンザが戦争よりも多くの人を死なせているし!

また、トランプは新型コロナウイルスへの対応を批判されたら、その批判内容を「新しいデマだ」と一蹴した。トランプ自身がウイルスについて誤情報を発信したことを指摘する報道も、フェイクニュースだと退けた。つまり、攻撃されるたびに「嘘だ」とはねつける。そこで Pearl Harbor(真珠湾)攻撃の時の大統領と重ね合わせてみよう! あの日を「a date which will live in infamy(汚名として記憶される日)」と言い、国民を結束させたフランクリン・ルーズベルト大統領(右)が、逆に真珠湾攻撃は fake news hoax(フェイクニュースのデマだ)とはねつけていたとしたら大爆笑だ。実際に爆弾が落ちているからネタもオチるよね。

もちろん、風刺画の描き方もこのコラムの書き方も不謹慎だと批判する人はいるかもしれない。確かに、コロナも戦争もふざけてはいけないテーマだ。だが漫画家と芸人より、ふざけた言動を見せる大統領に怒るのが先だろう。

<本誌2020年4月28日号掲載>

20200428issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年4月28日号(4月21日発売)は「日本に迫る医療崩壊」特集。コロナ禍の欧州で起きた医療システムの崩壊を、感染者数の急増する日本が避ける方法は? ほか「ポスト・コロナの世界経済はこうなる」など新型コロナ関連記事も多数掲載。

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、S&P・ナスダック3週ぶり安値

ビジネス

NY外為市場=ポンド下落、英中銀の利下げを確実視

ワールド

米国防権限法案、上院で可決 過去最大の9010億ド

ワールド

米財務長官、FRB議長候補ハセット氏への懸念を「ば
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story