コラム

「反権力」の時代の終わり

2015年08月11日(火)17時00分

 20世紀は、巨大な権力の時代だった。

 アメリカでは18世紀の終わりごろから「第一次合併運動」と呼ばれるムーブメントが起き、無数の中小企業が姿を消して大企業に飲み込まれていった。ゼネラル・エレクトリック(GE)やコカ・コーラ、ペプシコ、ウェスティングハウス、ゼネラル・モーターズ(GM)など20世紀を彩った巨大企業は、多くがこの時期に設立されている。ドイツでもAEGやバイエル、ジーメンスのような大企業の寡占化が進み、日本でも三菱や三井などの財閥が台頭した。

 これは第二次産業革命が進行していたことに加え、帝国主義によるアジア・アフリカの支配と市場化が、「巨大であること」を国家や企業に求めたからだ。大量生産のシステムが登場し、大きな資本と大きな工場、たくさんの労働者を使えることが企業の勝利の条件になった。そしてこれら企業を後押しするために巨大な政府が必要とされ、そのためには官僚システムが整備される必要があり、政府はさらに大きくなった。ふたつの世界大戦は、参戦した国に総動員体制を求めたから、ますます大量動員と大量生産を求めるようになる。そしてこの政府と企業のシステムから働く人たちを守るため、労働組合も巨大化して対抗するようになった。中央集権が加速していったのである。

 日本の高度経済成長の真っ最中、1950年代に起きた三井三池炭鉱の労働争議が「総資本対総労働」などと呼ばれたのは、まさに巨大な中央集権の時代を象徴していたといえる。

 しかしこのような巨大な中央集権の時代は、いま終わろうとしている。

 米国国家情報会議(NIC)が4年ごとに発表している「グローバル・トレンド」というレポートがある。2012年に出された「グローバル・トレンド2030:未来の姿」では、個人のパワーの増大と、逆に覇権的なパワーは拡散しつつあることを指摘している。

「2030年の世界は、現在のその姿からは劇的に変化する。2030年までには、いかなる国家も、米国、中国、その他の大国のいずれも覇権国家ではなくなるであろう。個人のパワーの増大、国家の連携、国家的なものから非公式に至るネットワークは、1750年代からの西側諸国の歴史的な繁栄の大転換、世界経済のアジア重視への回帰、国内外での新たな"民主化"の時代の先導といった強い影響を与える」

マイクロパワーの時代には内面と外界がシームレスにつながる

「我々は、個人のパワーの増大、国家の連携及びその他2つの大きな潮流が、2030年に向かうこの世界を形作るものと考えている」

プロフィール

佐々木俊尚

フリージャーナリスト。1961年兵庫県生まれ、毎日新聞社で事件記者を務めた後、月刊アスキー編集部を経てフリーに。ITと社会の相互作用と変容をテーマに執筆・講演活動を展開。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『当事者の時代』(光文社新書)、『21世紀の自由論』(NHK出版新書)など多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ヘッジファンド、銀行株売り 消費財に買い集まる=ゴ

ワールド

訂正-スペインで猛暑による死者1180人、昨年の1

ワールド

米金利1%以下に引き下げるべき、トランプ氏 ほぼ連

ワールド

トランプ氏、通商交渉に前向き姿勢 「 EU当局者が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 2
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story