コラム

人気と権力が最高潮に達したプーチンがなぞるロシア皇帝の道

2022年05月23日(月)11時40分

NW_PTN_03.jpg

プーチンが目指す?専制政治を貫いたニコライ1世の肖像画 UNIVERSAL HISTORY ARCHIVE-UNIVERSAL IMAGES GROUP/GETTY IMAGES

4本目の柱として、プーチンはメディアのストーリーを絶対的に支配している。今や国内には、独立系メディアもまともな反政府勢力も存在しない。

飛行機内で毒を盛られて重体に陥った反政府活動家のアレクセイ・ナワリヌイが療養していたドイツから2021年に帰国すると同時に逮捕されたとき、私の大学のロシア人学生の大半は愕然としていた。

今年2月24日にウクライナ侵攻が始まったときも憤慨した学生たちは、ナワリヌイの逮捕をあれほど急いだ理由を理解した。プーチンは、自分に異議を唱えるストーリーが十分に広まるリスクは決して冒さない。戦況の劣勢を記録して発表する機会は、あらかじめ排除しておけばいい。

プーチンが憧れる指導者は、スターリンに始まりゴルバチョフに終わるソ連の直系の先人たちではなく、帝政時代の皇帝だ。プーチンが読む歴史的人物の伝記は、おそらく99%が皇帝のものだろう。

具体的な手本はニコライ1世とその孫のアレクサンドル3世だ。2012年に大統領に再登板してからは特に、彼らの歩みを忠実になぞっている。ロシアを率いるには強硬な支配が必要で、自由主義的な意図をにおわせるものは直ちに、しっかりと、封じ込める──それが2人の皇帝の治世からプーチンが学んだ教訓だ。

ただし、2人の皇帝は最初こそ目覚ましい経済的成果を上げたが、その後ニコライ1世は1853年にクリミアで不必要な戦争を始め、皇太子時代にバルカン半島で戦ったアレクサンドル3世は南下政策を推し進めた。

プーチンはウクライナで勝たなければ自らの帝政の試みが頓挫することを、間違いなく意識している。私はある著名なロシア人経営者に、ロシア兵の死体が山積みになったらどうなるだろうと聞いてみた。

「第2次大戦でナチスに勝ったことが礎にある文化では、ナチスと戦って死ぬのはこの上ない名誉だ。その青年が生きていたら、酒を飲み、けんかをして、月給300ドルで工場で働き、50歳で肝不全で死ぬだろう。戦争で死んだら本人は英雄になって、家族は勲章とお金を受け取り、母校には銘板が飾られる」

20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

貿易分断で世界成長抑制とインフレ高進の恐れ=シュナ

ビジネス

テスラの中国生産車、3月販売は前年比11.5%減 

ビジネス

訂正(発表者側の申し出)-ユニクロ、3月国内既存店

ワールド

ロシア、石油輸出施設の操業制限 ウクライナの攻撃で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story