コラム

中国の景気はそれほど悪いのか?

2015年10月28日(水)15時37分

不動産開発投資が上向けば、鉄鋼やセメントの回復も期待できるが(写真は2013年の北京) Kim Kyung-Hoon-REUTERS

 2015年7月~9月、1月~9月の中国の実質GDP成長率はともに前年同期比6.9%となりました。2015年の政府経済成長率目標である7.0%前後を下回り、2009年1月~3月(同6.2%)以来6年半ぶりの低水準となりましたが、2015年1月~6月の同7.0%からは0.1%ポイントの減速です。7%割れに大きな意味はありません。実質GDP成長率は2010年の前年比10.6%をピークに5年にわたり低下傾向が続いています。景気減速は今に始まった話ではなく、ここへきて急速に景気が悪化しているわけでもありません。

中国経済に対する疑心暗鬼のひとつに、当局が発表する経済統計は信頼できず、景気の実態はもっと悪いはずだ、というものがあります。もちろん、その可能性は否定しませんし、既に様々なところで分析されています。そこで今回は少し視点を変えて、中国経済へのいくつかの固定観念と実際とのギャップが、こうした疑心暗鬼を増幅しているのではないか、ということを見ていきたいと思います。

 まずは、中国経済は製造業中心である、との固定観念です。産業別GDP統計を見ますと、そのウエイトは2012年に第三次産業が第二次産業を逆転し、2015年1月~9月では51.4%を占めています。第二次産業は40.6%でした。7月~9月の産業別GDP実質成長率は第三次産業が金融業をリード役に同8.6%と堅調で、第二次産業は同5.8%、第一次産業は同4.1%となっています。鉱業・製造業を中心とする景気低迷のイメージと、GDP統計とのギャップの背景の一つには、こうした構造変化に認識が追い付いていないことがあるのかもしれません。

株価下落の消費への影響はそれほど大きくない

 次は、中国の人々はこぞって株式投資に熱中している、という固定観念です。確かに、株価急騰に拍車がかかった2015年4月~6月の新規証券口座開設数は3,801万を数え、日本の2015年6月末時点の顧客口座数2,312万の1.6倍もの新しい口座が開設されました。ただし、これには4月13日以降、投資家1人につき1口座という規制が大幅に緩和され、20口座まで開設できるようになったことが大きく、この間の投資家数は1,378万人の増加でした。ちなみに、中国の2015年6月末の証券口座数は1億8,821万と日本の8倍ですが、人口は日本の10倍ですので日本と比べても株式文化が浸透しているわけではありません。9月下旬の現地ヒアリングでは「家計金融資産に占める株式等の割合は10%程度で、現預金・債券が80%と圧倒的に多い」との指摘がありました。

プロフィール

齋藤尚登

大和総研主席研究員、経済調査部担当部長。
1968年生まれ。山一証券経済研究所を経て1998年大和総研入社。2003年から2010年まで北京駐在。専門は中国マクロ経済、株式市場制度。近著(いずれも共著)に『中国改革の深化と日本企業の事業展開』(日本貿易振興機構)、『中国資本市場の現状と課題』(資本市場研究会)、『習近平時代の中国人民元がわかる本』(近代セールス社)、『最新 中国金融・資本市場』(金融財政事情研究会)、『これ1冊でわかる世界経済入門』(日経BP社)など。
筆者の大和総研でのレポート・コラム

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