コラム

正常化には程遠い、ニューヨークの治安の現在

2023年07月05日(水)11時40分

7月4日の独立記念日の花火を見ようと集まったニューヨーク市民 Jeenah Moon/REUTERS

<以前の「ニューヨーカー」は郊外に転居してしまい、都市経済の回復はなかなか見通せない>

2020年春以降、コロナ禍によるロックダウンが、ニューヨークを直撃しました。正確に言うと、この街には二重の衝撃が走ったと言うことができるでしょう。国境が事実上閉鎖されたことによる、国際観光都市という機能の消滅と、テレワークの一般化による昼間人口の消滅という衝撃が重なったのです。

その結果として、半数以上のレストランが廃業に追い込まれ、ホテル業界と公共交通機関も大きな打撃を受けました。都市の経済ということでは、現在でもニューヨークはコロナ前の水準への回復は見通せていません。アメリカ全国ということでは、経済の指標は明らかに好調です。ニューヨークに本拠を置くような金融や情報系の産業も、一部の銀行を除けば好調です。

ですが、いわゆる「ニューヨーカー」はマンハッタンから1時間ぐらい離れた郊外に転居して、夫婦ともに独立した書斎を構え、子どもを安全な郊外学区の学校に通わせています。そして、旺盛な消費行動の相当な部分はネット通販に流れています。そんなわけで、都市経済の回復はなかなか見通せないのです。

市役所や企業の側には危機感があり、何とか出勤率を高めようと躍起です。ウォール街の多くの企業など、民間では、2023年の春までは一週間に「出勤2回、テレワーク3回」というのが、暗黙の労使協定であり、企業はそれ以上の出勤を要求すると、労働者側が「ワークライフバランス」の点から拒否、結果的に「優秀な人材は逃げる」とされていました。現在は、やや企業側が押しており「出勤3回、テレワーク2回」が相場になっているようですが、依然として昼間人口の戻りは鈍いままです。

そんな中で、問題は都市としての治安です。2020年の夏、ロックダウンの下で無差別な銃撃が横行したことがありました。また、この2023年の春先までは、アジア系を狙った衝動的な暴力事件が頻発していました。こうした無差別に個人をターゲットとした暴力問題は、ここへ来てやや鎮静化しています。

地下鉄内に居着くホームレス

残る問題は、2つあります。

1つはホームレスの問題です。ニューヨークのホームレスは、西海岸のように家賃高騰のために家を失った困窮者ではありません。全員とは言いませんが、コロナ禍の中で刑務所から無期限仮釈放された受刑者の多くが、寒さを避けて地下鉄の車内や構内に居着いているのです。彼らの多くは犯罪行為に抵抗感がなく、脅迫的な物乞いをするなどして、地下鉄内の治安を悪化させています。

市当局は、快適な「シェルター」への収容へ誘導していますが、彼らの多くは「管理されることを極端に嫌う」ために定住していません。そんな中で、シェルター施設は、南部諸州が嫌がらせで送り込んでくる越境難民認定申請者で溢れる結果となっています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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