コラム

統一地方選に「統一感」はなくて良いのか?

2023年03月29日(水)15時00分

1)経済と人材ということでは、全国レベルでは東京一極集中、北海道では札幌一極集中、東北では仙台一極集中、九州では福岡一極集中があり、その他の地方の過疎化を招いている。

2)地方経済の衰退により、地方金融も細っており、地銀の多くは困難に直面している。

3)新幹線、高規格道路、地方空港のトリプル整備を進めた結果、交通網が過剰になり在来線の鉄道や航空網の維持が難しいばかりか、ストロー現象によって経済衰退を招いている地域がある。

4)インバウンド観光に極端に依存した経済構造になりつつある一方で、パンデミックにより人材の喪失、資本の脆弱化を招いた。

5)地方経営者には、女性を活用して知的付加価値を創出することが極端に苦手な層があり、ここを改善しないと女性人材の定着が難しく、結果的に自治体消滅を招く。

6)農林水産業は、高齢者依存の結果、後継者不在による廃業のプロセスに入りつつある。

7)農林水産業における、外国人研修生依存は、低賃金労働の温床として批判があり存続が難しい。その一方で、農園のオーナー自身が「最低賃金以下」で働いている構造の中では、産業自体の維持も難しい。

8)都市部の多国籍企業を中心に、円安と国際的な労働市場形成による賃金上昇が進んでおり、地方の優秀な人材が更に流出する危険がある。

まだまだあると思います。とにかく、日本の「地方」は、構造的に大きな問題を抱えており、徹底的な議論を進めて変革を加速しないと「間に合わない」という状況です。その意味で、今回の選挙は難しいにしても、「地方統一」の国民的な議論が喚起されることは必要と考えます。

例えばですが、都市には納税者の不満を代弁する「都市型の小さな政府論」を掲げた政治勢力があります。これとは別に、苦悩する地方の立場を代弁する「地方存続のための具体策」を主張する政治勢力が出てきて、国政選挙で選択肢を提言するということはあっても良いと思います。

日本の地方の場合は、バラマキを誘導すれば「維持できる」という段階は、もう過ぎてしまっていると思います。根本的、実務的な、地に足のついた議論として、変えなくては「終わってしまう」という認識をどう問いかけていくか、地方の活性化が日本の将来を左右するという気概のある、新たな動きに期待したいと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

IBM、コンフルエントを110億ドルで買収 AI需

ワールド

EU9カ国、「欧州製品の優先採用」に慎重姿勢 加盟

ビジネス

米ネクステラ、グーグルやメタと提携強化 電力需要増

ワールド

英仏独首脳、ゼレンスキー氏と会談 「重要局面」での
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 10
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story