コラム

瞬速で銀行破綻、瞬速で危機対応......フィンテック時代の金融のスピード感

2023年03月15日(水)16時45分

それはともかく、この「正直な公表」を受けて、SNS、特にツイッターでは匿名による「SVBの資産内容は怪しい」という噂が拡散していきました。そこでSVBは信用不安を避けるために、普通株、つまり自社の新株を売り出して資金調達を計画しました。ところが、これが裏目に出てしまい、「やはり疑惑はホンモノ?」という噂が更に広まったのでした。

そんな中で、一気に預金引き出しと株の叩き売りが起きたのが8日の木曜日でしたが、この「取り付け騒動」が実際に発生したのはネット上でした。つまり「フィンテック」が進む中で、例えばシリコンバレーの中堅企業などで自社の余剰キャッシュをSVBに預けていた企業の財務担当者などは、例えばテレワーク中の自宅から、あるいは場合によってはスマホを使ってSVBから別の銀行に資金移動を行ったのでした。

SVBに関しては、預金につける金利を高めにしていて、経営の姿勢が腰高だったというような批判がありますが、それよりも、取引先にシリコンバレーのベンチャーが多いので、「SNSでの噂の拡散スピードが猛烈に早かった」「電子取引(フィンテック)が多いので、預金流出が瞬速だった」という要素が命取りになったと考えられます。

これに対する当局の対応も素早いものでした。9日の問題発生を受けて、10日にはSVBをFDIC管理に置くとともに「休業命令」を施行。その上で、週末の土日をかけて、大手を含む多くの銀行に対して入札を行い、SVBの「買い手」を探しつつ、SVBの資産内容を精査したようです。

人事刷新も電光石火

その結果、12日の日曜に「どうやらSVBの内容は相当悪い」ということが分かり、同時に銀行全体の入札はこの時点では不調となっていました。(イギリス法人は破綻を免れて買収されています)そこで、13日の月曜日になると、市場がオープンする前の早朝に「バイデン大統領自身が出てきて対策を簡潔に述べる」という手段が取られました。これで、一気に状況は好転し、14日には危機をほぼ脱することができたのでした。

バイデン大統領は破綻した2行に対して「経営陣の退陣」を求めましたが、その通り経営陣は即日退陣して、後任が就任しています。人事も電光石火で進みました。とは言え、この問題、まだ危機が去ったわけではありません。何よりも、SVBとシグネチャー銀行の「買い手」を決めて、処理を確定させることが必要です。

今回のSVBの破綻に関しては、粉飾や横領などの犯罪性は少ないようですが、経営陣が自社株を早期に売却しており、インサイダー取引の疑惑が持ち上がっています。ネガティブ情報をどんどん出しつつ、自社株を売っていたので問題はないという説もあるものの、既に捜査が開始されており、証券監視当局の動きも迅速と言えそうです。

いずれにしても、今回の破綻と処理のスピード感については、金融関係者も投資家も、21世紀の金融ビジネスを考える上では、理解しておいたほうが良さそうです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米失業保険申請、10月最終週は小幅増=ヘイバー・ア

ワールド

北朝鮮が弾道ミサイル発射、EEZ外に落下したとみら

ワールド

米主要空港で最大10%減便へ 政府閉鎖長期化で 数

ワールド

高市政権にふさわしい諮問会議議員、首相と人選=城内
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 5
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 6
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 9
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 10
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story