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岸田少年はどのように「ニューヨークで差別された」のか?
もう1つの可能性は、異民族であるアジア系への侮蔑という問題です。当時は、まだまだクイーンズ区へのアジア系の移民が本格化する前でした。岸田少年は、その先駆と言うべき存在であったわけです。その後は、多数のアジア系移民を受け入れたクイーンズですが、半世紀を経た現在は、コロナ禍を受けたアジア系へのヘイト犯罪が猛威を振るっています。当時の差別を放置せず、キチンと和解へと持っていくことは、まさに現在進行形のアジア系差別に対する強力な回答となるでしょう。
この点に関しては、実は2022年9月に首相がニューヨークの国連総会に出張した際に、私はニューヨークの地元日系紙『週刊NY生活』に、その「白人の女の子」を探し出して「和解のセレモニー」をするべきだと主張したことがありました。
この提案を官邸がピックアップしたのかどうかは分かりませんが、この2022年秋の国連総会のタイミングでニューヨークに出張してきた首相は、帯同していた裕子夫人を、自分の代わりに、自分が昔通学していたクイーンズ区エルムハーストの市立小学校PS13に派遣し、裕子氏が4年生のアートのクラスを見学したそうです。
岸田裕子氏は、授業のはじめに生徒たちに「けん玉」を配り、学校長へ首相の筆で「天真爛漫」と書かれた色紙を贈呈し、児童とともに折り紙で「着物」を折るというアクティビティを行ったそうです。その際に、首相からは学校関係者に、「(当時の先生はもういないが)小学校生活を楽しく過ごしたことを伝えてほしい」とのメッセージがあったそうです。
差別問題への姑息な対応
このイベント自体は、毒にも薬にもならない内容です。ですが、これでは、首相個人として懸案の「被差別体験をひきずる」のをやめて「和解という勝利」に持ち込むことには全くなっていません。まして「天真爛漫」の一筆に加えて「楽しく過ごした」などというメッセージを夫人に託して往時の経験を美化するのはハッキリ申し上げて姑息です。
これでは、岸田氏個人だけでなく、ニューヨークをはじめ、アメリカの日系人・日本人社会としても、アジア系の社会としても、名誉を確認することにはなりません。
仮に在外公館などが「動物園で隣だった白人の女の子」を探し出すことができなかったとしても、当時のクラスメイト何人かを集めて同窓会を行うとか、岸田氏として現在のクイーンズ区の人種多様性を讃えるイベントを主宰するとか、何か「やりよう」はあると思います。ニューヨークはコロナ禍の影響で、アジア系へのヘイト犯罪が多数発生し、アジア系への差別問題は喫緊の課題でもあります。
ほかでもない岸田氏自身が、日米の防衛力の連携を強化し、お互いのコミットメントを高めようとしているのです。この同盟関係をより強固にするには、両国世論が高いレベルでの相互信頼を維持することが何よりも大切です。首相自身が、相互の信頼と、絶対的な対等関係を行動で示すことで、率先してもらいたいと考えます。
冒頭の国会での発言に戻るならば「差別を受けた痛みを知っている」ということで、差別的な発言や差別的な人材を任命したことが免罪されるという発想は、やはり違うと思います。その姑息さを根本から断ち切るには、やはり少年時代に受けた差別経験を堂々と和解に持ち込み、屈折した「引きずり」を断ち切ることが必要だと思います。
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