コラム

自民党「保守派」から見えてこない根本の政治思想

2022年08月31日(水)13時30分

また反対する理由、その背景にある家族観も不明確です。「都会のキャリア志向の女性と離婚して、子供を後継ぎとするために親権を取った父親とその両親が、子供への母親の影響力をゼロにしたい」、そんな例があるのは一応は理解できます。また、再婚家庭の配偶者は一般的に相手に、親権のない連れ子との関係を断つように要求するのが「正しい」といった、一種の家族観に引っ張られている可能性も感じます。

仮にそうだとして、それが「麗しい日本の伝統的な家族」だと胸を張られても困りますし、そもそも説明がないので「どのような家族観から判断しているのか」が見えないのです。よくあるのは、別姓家庭の子供や、共同親権の子供は「いじめられる」という批判です。

ですが、それこそ反対派の大人としては「いじめられるのが心配」というよりも、「そのような例外がいるとコミュニケーション面で面倒なので排斥したい」というのが本音のように聞こえます。「いじめられるのが可哀想」などと言いながら、いじめる気満々という気配すらあります。いやいや、それは違うというのなら、やはり分りにくいので説明を求めたいと思います。

とにかく、この夫婦別姓問題における「戸籍を汚すな」的な印象論と、共同親権に関する問題については、反対するうえでのロジックが見えないのです。

特定団体の影響?

もしかしたら、保守派の政治家や支持者には明確な家族観やイデオロギーというものはなく、「リベラルの知的なマウント取りが憎いので逆方向に行くと結束できる」という党派対立のメカニズムだけなのかもしれません。あるいは「自分の支持層はとにかく時代の変化や社会の変化を嫌っているので、昔の通りがいい」という思考停止への迎合なのかもしれません。だったら、別姓問題にしても、親権の問題にしても、現在ある制約に苦しんでいる人々に対して、あまりにも不誠実だと思います。

一つ心配なのは、「支援してくれて欠かせない存在になっている宗教や外国団体の影響に引きずられている」という可能性です。比較的小さなテーマにここまで対立エネルギーを投入しているのは、基本的に不自然であり、どうしても外部勢力の工作を受けているという疑念が生じてしまうのです。仮に事実であれば、それが100%の要因ではないにしても、これは深刻なことです。

いずれにしても、家族に関するイデオロギー論争はしっかり行うべきです。まずは、保守派の方々には、どのような家族観に基づいて政策論を展開しているのか、透明性のある説明をお願いしたいと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

香港GDP、第3四半期改定+3.8%を確認 25年

ワールド

ロシアが無人機とミサイルでキーウ攻撃、4人死亡・数

ビジネス

インタビュー:26年春闘、昨年より下向きで臨む選択

ビジネス

ニデック、4―9月期純利益58%減 半期報告書のレ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 5
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 10
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story