コラム

圧倒的に議論が不足している経済安全保障問題

2022年02月16日(水)14時45分

以上は狭い意味の経済安全保障ですが、より広い意味の考え方に立てば、何よりも国際競争の中で勝っていかねばならないという問題は避けて通ることはできません。一番の問題は空洞化の進行です。日本は他の産業国と同様に、より人件費の安い国に生産拠点を移動したり、消費地へ生産を移動するという「クラシックな空洞化」を進めてきました。

その空洞化が過度になっているだけでなく、日本経済の場合は先端技術の研究開発やデザインなど高付加価値の部分も国外に流出させています。これは日本独特の問題であり、その結果として空洞化した後の国内を「知的産業による先進国経済」に転換させることに失敗し、大卒50%という社会で観光と福祉を基幹産業にせざるを得ないという苦しい国策に追い込まれています。

この問題こそが本丸です。今は機密を囲い込みながら監視を強めて、軍需に依存するというサイクルに入るべき時期ではないと思います。そう考えると、岸田政権が「狭い意味での経済安全保障政策」については、

・「サプライチェーンの強化」
・「基幹インフラにおける事前安全性審査制度」
・「重要技術の研究開発推進」
・「特許非公開制度」

といった4点に絞り込み、反対にそれ以外に関しての過剰な規制は避けているのは理解できます。経済安全保障の中で最も大切なのは、競争力の維持です。狭い意味での経済安全保障にこだわった結果、経済活動が萎縮するとか、複雑な申請手続きを嫌って、かえって空洞化が加速するというような制度設計は避けなければならないと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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