コラム

コロナ禍でますます激化するアメリカ社会の分断

2021年09月29日(水)15時45分

学校のコロナ対策は各州によってまったく異なっている Brian Snyder-REUTERS

<トランプ時代に顕著になったアメリカ社会の政治的分断は今、コロナ対策という日常生活にまで影響を及ぼしている>

日本では、ワクチンの接種が現役世代に届く中で新型コロナウイルスの感染拡大が、ここへ来てスローダウンしています。一方アメリカでは、同じように大きな山は越えつつあるものの、依然として南部や中西部を中心に医療崩壊に近い州があり、まだまだ気が抜けません。

そんな中で、アメリカの場合は新型コロナに対する対策が、地域によって全く異なってきています。

まず、感染拡大における危機がまだ続いている南部や中西部では、「マスクとワクチンの強制を禁止」するのが、共和党が州政を担っている各州の姿勢です。とにかく、マスクとワクチンは任意であり、政府や教育委員会などが「義務付ける」のは州法としても、州の裁判所としても「禁止」するというのです。

例えば、地域の教育委員会が学校において「勝手に児童にマスクを義務付けた」となると、教育予算をカットするなどという州もあります。そうした州では、「マスク強制は児童虐待だ」などと叫ぶ保護者のグループが、知事を支持して教員を罵倒する光景が現出しています。

黒人への「人体実験」の記憶

ワクチンに対しても、保守州の方が根深い「エスタブリッシュメントへの不信」を背景に忌避の姿勢が広がっています。これとは別に、南部のアフリカ系の中には、かつて自分たちの祖先が人体実験の材料にされて注射を打たれたという「人種としての負の記憶」が、ワクチンへの不信の原因になっているという問題もあります。こうした結果として、中西部や南部では接種率が伸びなかったのです。

この問題に関しては、トランプ前大統領とその周囲は、自分たちが超特急で開発と治験を支援して作ったワクチンは「トランプ・ワクチン」だと称して、接種を勧めています。ですが、トランプ派の多くは言うことを聞きません。「自己決定権を脅かすバイデンに反対する気持ちは、トランプも同じ」だと固く信じているからです。

つまり保守州では、コロナ対策は「全て自己決定による自己責任」であり、州政府はマスクもワクチンも強制しない、また感染拡大がどんなに厳しい状況になっても、休業要請など経済への規制は「一切やらない」というのが徹底しているのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ニデック、内部管理体制の強化図るとコメント 特別注

ビジネス

米国初のアルトコインETF上場へ、キャナリーとビッ

ビジネス

日経平均は反落で寄り付く、5万円達成で利益確定売り

ワールド

日米首脳きょう会談、対米投資など議論 高市氏「同盟
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下になっていた...「脳が壊れた」説に専門家の見解は?
  • 4
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 5
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 6
    中国のレアアース輸出規制の発動控え、大慌てになっ…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story