コラム

コロナ禍でますます激化するアメリカ社会の分断

2021年09月29日(水)15時45分

例えば南部では、今でもマスク着用を「禁止」するレストランやバーがありますが、そうした営業姿勢も許されています。店も客も自由であり、全ては自己責任という考え方です。そうした政策の結果として、どんなに感染爆発が深刻化しても、また地域の医療が崩壊しても、世論と行政の姿勢は基本的に変わりません。

一方で、民主党の州政は、同じように経済はオープンする方向ですが、その代わりに感染拡大を抑制するために、「ワクチンの義務化」をしたり、「ワクチンか、あるいはPCR検査のどちらかの義務化」をする方針が強まっています。

義務化で先行しているのはニューヨークで、レストランの室内営業や、劇場などでは利用者にワクチン証明書の提示を義務付けています。また、この9月27日からは医療機関や教職員に対する接種義務化がスタートしており、反対派との訴訟合戦など混乱が見られるものの、州政府と市役所は「外国人の看護師や州外の教員」を導入してでも、接種拒否者は排除する構えです。

アメリカの政治風土が変わる

同じ民主党知事のカリフォルニア州では、度重なるロックダウンや、マスクの義務化などに激怒した共和党支持者による、ガビン・ニューサム知事に対するリコール運動が起きました。事前の世論調査では、知事への批判が高まっていて、選挙戦は拮抗していると言われていました。ですが、9月14日に行われた選挙の結果は、「リコール反対」が62.2%に対して、「賛成」つまり「知事罷免」は37.8%となり、ニューサム知事は「地滑り的勝利」を得てコロナ対策は信認された形となりました。

トランプ時代には、アメリカの分断が進みました。2020年の大統領選後には、選挙結果をめぐる争いがあり、議事堂における暴動という不祥事も起きました。ですが、こうした分断は、広い意味での民主党カルチャーと共和党カルチャーの争いというアメリカの「お決まりのパターン」の範囲内とも言えます。

ですが、現在進行しているのは、コロナをめぐる個人や家族の生活様式、生命観、官民双方の働き方や政府の役割に関して、全く異なる世界同士の分断です。コロナ禍に出口があるとしても、この分断はアメリカの政治風土を大きく変えるかもしれません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ブラックロック、AI投資で米長期国債に弱気 日本国

ビジネス

OECD、今年の主要国成長見通し上方修正 AI投資

ビジネス

ユーロ圏消費者物価、11月は前年比+2.2%加速 

ワールド

インドのロシア産石油輸入、減少は短期間にとどまる可
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カ…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 8
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 9
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story