コラム

9・11テロからの20年と日本

2021年09月08日(水)15時00分

ロウワーマンハッタンの対岸に設置された9.11のメモリアル Eduardo Munoz-REUTERS

<アメリカでは超党派の「非介入主義」を根付かせたが、日本の「軽武装政策」という国是は変わらなかった>

朝方に凄まじい事件が続いた「あの日」、全米に飛行禁止令の敷かれた午後、飛行機雲の消えた空は深い海のような濃紺に包まれていました。その晩は初秋の冷え込みが厳しく、救出されていない生存者の消息が気遣われたのも、そして負傷者のための献血に多くの人が並んだのも、昨日のことのように蘇ってきます。

今年の9月11日、あれから20年の年月が経過することとなります。

現在もアフガンでは、タリバン主導政権の統治が立ち上がらずに混乱が続く一方で、既に米軍が撤退したことで国外脱出希望者の救出が停滞しています。この問題に関しては、バイデン大統領を批判する動きがあります。しかしながら、旧政府のガニ政権が事実上崩壊していた中では、ガニ大統領の即時米国亡命を拒否してタリバンとの間接的な交渉チャネルを残し、カブールの市街戦を回避できた現状についてはバイデン政権は腹を括って受け止める姿勢のようです。

ガニ政権崩壊の遠因は、2020年2月に当時のトランプ大統領とポンペイオ国務長官が、ガニ政権を無視して「アメリカとタリバンの停戦」合意を行ったことに遠因があります。それ以前の問題として、この停戦合意こそ、アメリカが事実上の敗戦を受け入れた判断であったわけです。ですから、この両名が、現状に関してバイデン氏を批判しても、あまり説得力はありません。

孤立主義の根源

いずれにしても、アメリカにとってのこの20年には、9・11という事件が大きく影を落としています。この点に関しては専門家の間で様々な論評が飛び交っていますが、一言で言えば、現在のアメリカを覆っている「分断」も、そして左右両派に共通する「非介入主義」という名の強い孤立主義も、全てこの9・11に端を発したものと考えられます。

その一方で、日本の場合はこの「9・11」という事件の影響は受けたものの、それで国の歴史が変わるということはなかったように思います。

事件のその日、アメリカには2人の日本の政治家が出張中でした。一人は当時都知事だった石原慎太郎氏でした。姉妹都市のニューヨークが被災する中で、滞在中のワシントンDCから激励に回ることが期待されましたが、同氏は何故か動きを見せませんでした。

一方で、ニューヨークには当時閣僚だった尾身幸次氏が出張中であり、激励や視察は行いましたが、日本への土産を買うために百貨店を探し回ったという報道があり、落胆を感じたのを覚えています。少なくとも、この両名にとって事件は、「他人事(ひとごと)」であったのかもしれません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story