コラム

五輪開催へ突き進む日本政府、その特異なギャンブル性

2021年06月23日(水)14時20分

東京五輪開催を1カ月後に控えた国立競技場 Pawel Kopczynski-REUTERS

<現政権は、五輪が成功すれば世論の支持は上向くだろうという「賭け」に出ているように見える>

現在の日本の政治は、異常な事態が続いています。世論調査をすると、五輪の有観客実施への支持は3割程度しかありません。ただ、開催か中止かという問いに対しては、ここへ来て開催が50%程度となってきており、6月上旬の雰囲気と比べると世論は開催支持に傾いているようにも見えます。

これに対しては、開催に突き進む政府と五輪委によって世論が誘導されているとか、あるいは世論の中に「諦めムード」があるといった解説もされています。その真偽はともかく、世論の多数派が五輪の開催に「懐疑的」であるという状態は変わっていないし、開催へ進む政府への不信感も払拭されているわけではありません。

夏季五輪の自国開催という国家的行事について、このように世論に不支持があり、それが政治への不信感に結びついているというのは異常なことです。ですが、政治が世論の不信を招くこと自体は、過去50年の日本の政治には良くあったことですし、そもそも「庶民」が「お上」を信じないカルチャーは、江戸時代以来のものだと思います。

一方で、開催へと進む政権の側の姿勢はかなり特殊です。それはこの五輪開催という政策がギャンブル性を抱えているということです。まず、政権は、現在の感染対策を通じて、デルタ株(インド型変異)などの第5波を「仮に抑制できれば」、五輪を成功させることができるという「賭け」に出ています。その上で、今は積極的に支持されていなくても、五輪が成功すれば世論の支持は上向くかもしれないという「賭け」もこれに重ねられています。

選挙の季節を迎えているのに

こうしたギャンブル性の高い政治姿勢というのは、極めて異常なことです。まず、現時点での世論を無視しているわけです。その「今は憎まれていても」どうせ「成功したら支持してもらえるだろう」という姿勢には、世論への侮蔑意識や居直りのようなものが感じられ、かなり筋が悪いと言えます。選挙の季節を迎えているにしては、大胆不敵とも言えます。

では、どうしてそんな「悪手」が平然と打てるのかというと、理由は簡単です。世論は、政府に対しても不信感を抱えていますが、それと同じように野党の団結力、統治能力に対しても信頼を置いていないからです。ということは、このままズルズルと事態が推移していくようですと、五輪は失敗し、感染拡大も第5波に向かい、ワクチン接種率も上がらないという、悪いシナリオになっても、有権者には「選択肢がない」という可能性が出てきます。

そうならないためには、少なくとも有権者が存在感を出せるようにしなくてはなりません。そのための1つ提案をしたいと思います。

それは、野党が「東京オリパラの後始末をする」という公約1点に絞るという戦略です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

フィンランドも対人地雷禁止条約離脱へ、ロシアの脅威

ワールド

米USTR、インドの貿易障壁に懸念 輸入要件「煩雑

ワールド

米議会上院の調査小委員会、メタの中国市場参入問題を

ワールド

米関税措置、WTO協定との整合性に懸念=外務省幹部
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story