コラム

日米サプライチェーン連携で、日本の低迷は救えるのか?

2021年04月14日(水)14時00分

このサプライチェーンと先端技術の役割分担構想ですが、全くダメとは言いません。コロナ禍で大きく傷ついた国内経済には、全体として少なくともプラスの効果は期待できるからです。

ですが、何でもアメリカの言うことを聞けば良いというわけではないと思います。特にテックの分野においては、コロナ禍の影響をほとんど受けていないために、GAFAの営業規模、そして資金力は更に肥大化しています。何でも言いなりになっていれば、中国よりも安く労働力を叩かれ、町工場などに残っている独自ノウハウも持って行かれてしまいます。気がついたら、技術は流出し、人々は一層貧しくなっている、そんな結果に陥る危険は十分にあります。

グルーバル経済というのは、21世紀の現代では必然だと思います。技術や資金の流通、国際分業は完全に止めることはできないからです。ですが、それでも国単位の、あるいは通貨圏ごとの繁栄や衰退ということはあり得ます。国としての産業構造や、技術の育成と防衛ということをしなければ、グローバルな競争の中で不利な戦いを強いられて最終的には国も国民も貧しくなってしまいます。

日本の場合は、過去30年以上にわたって、そのような撤退戦を続けてきました。その結果として、これだけの高学歴社会でありながら、幸福度も一人当たりのGDPも減り続けてきたわけです。今回の「日米の役割分担」が、そうしたトレンドに歯止めをかけるものなのか、それとも衰退の加速につながる危険を含んだものなのか、それは政権と財界が、少なくとも現状の豊かさを守り切る決意があるのかに掛かっています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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