コラム

ヴァレンティノ炎上CMで、踏まれているのは「帯」なのか「布」なのか?

2021年04月01日(木)15時15分

寺山修司の映画版は「一巻の布」を着物の帯に変えてセクシャルなイメージを付加したが(画像は和服と帯のイメージ画像) banabana-san/iStock.

<日本文化へのオマージュだという前提情報がしっかり伝えられなかったことが問題>

イタリアの高級デザイナーブランド「ヴァレンティノ」による、日本の「着物の帯」を女性が踏んでいるという演出のウェブCFが「炎上」し、削除されたという事件は、極めて興味深い現象と思います。3点お話したいと思います。

まず1点目は、踏まれているのは「帯」なのか「布」なのか、という問題です。

まず、ヴェレンティノの日本法人からは「日本の文化に敬意を込めて作成されたもので、日本の文化を冒涜するような意図は全くなく、このシーンで使われた布も、着物の帯ではありません」という説明がされています。前半はそうだと思いますが、後半は少々解説が必要です。

というのは、このCF全体が1978年に寺山修司氏が監督した中編映画『草迷宮』へのオマージュになっているからです。映画では明らかに女性の帯が建物から谷間のような空間へ向かって解かれており、その上を少年が歩くと、さらに砂丘を越えて行くという演出になっています。

ちなみに、映画におけるもう一つの象徴的なアイテムである「手まり」を突くというシーンもCFでは出てきますから、寺山作品を意識したのは明らかです。そう考えると、踏んでいるのは「着物の帯」のように思われます。

『草迷宮』へのオマージュ

ところが、違うという見方もできるのです。実は、この映画には原作があります。近代日本文学における「名匠」ともいえる泉鏡花が1908年に刊行した小説『草迷宮』がそれです。小説にも、手まりは出てきますし、映画と同様に手まり歌も重要なモチーフとして出てきます。

この鏡花の小説ですが、帯は出てきません。その代わりに「一巻の布」というのが出てきます。そして「襷(たすき)になり帯に」なって、「浜に消えて」というのですから、寺山監督は、この原作の「一巻の布」にヒントを得て、それを着物の帯に変えることでセクシャルなイメージを付加したようです。

ですから、あの「帯」は映画へのオマージュなら「帯」ですが、さらに遡って鏡花の原作になると「一巻の布」になります。もちろん、この辺はクリエーターに聞かないと分かりませんが、ヴァレンティノの説明は、全くの弁解とも言えない面があります。

2点目は、寺山作品を意識していながら、そのテーマである「母子相愛」とか「セクシャリティ」というモチーフは全く無視しているということです。

むしろ、フランスでの上映を前提として、やや色濃く塗られた「ジャポニズム」的な色彩感とか、帯、手まりといったアイテムに象徴的な意味を持たせるという演出だけを参考にしていると考えられます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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