コラム

ポスト安倍の政局、政策面で求められる3つの論点

2020年08月27日(木)17時00分

安倍首相の健康不安で永田町はにわかに騒がしくなってきた Rodrigo Reyes Marin-REUTERS

<次がどのような政権でも、政策に新鮮味と妥当性がなければ立ち往生するだけ>

安倍首相の健康不安問題を受けて、日本の政局が流動的になってきたようです。史上最長となった安倍政権ですが、ここへ来て首相の辞任または衆議院の解散など大きな動きがあるかもしれない、そんなムードが伝えられています。

ですが、仮に安倍首相が続投するにしても、総裁選などでポスト安倍となる人物が登場するにしても、あるいは党外も含めた政界再編が起きるにしても、問題は政策です。政策に新鮮味と妥当性がなければ、次の政権も立ち往生するだけです。3点考えてみたいと思います。

1つ目は新型コロナに関する政策です。日本の場合は、ここへ来てようやく選択肢が見えてきました。PCR検査を大規模に行う代わりに新型コロナウイルスを指定感染症(2類相当)から外して陽性者の隔離を緩和するか、現在のように検査数を限定しつつ陽性者は隔離する方針を続行するのかという選択です。

前者には偽陰性が多く出現することで隠れた感染が拡大する問題、偽陽性の多い場合には社会の不安が増大する危険などがありますが、仮に感染が可視化されることが広範な安心感になるのであれば、社会経済の再起動を後押しするかもしれません。どちらを選択するかは、意味のある議論と思います。

構造改革の志が重要

2つ目はアベノミクスです。まず、第一の矢である円安政策ですが、世界中がコロナ関連の経済危機にある現状では、少しでも油断をすれば円高になってしまいます。そうした環境下では現在の政策を継続するという考えはあると思います。ですが、危機的な状況の中では適度に円高に振っておかないと、日本の企業も土地も「生産性のある部分から他国に買われてしまう」という警戒感も必要で、ここはやはり十分な議論が必要と思います。

また、第二の矢については、広義の公共投資としての景気刺激策をあらためて考慮すべき時期です。GDPの激しい落ち込みのなか、景気刺激策はあらためて多角的に行うべきという考えと、それでも財政規律に固執べきという考えとの間で決着をつけるべきでしょう。

問題は第三の矢です。コロナ危機は、日本経済が対面型コミュニケーションとペーパーによる記録で動くおそろしいほどの低生産性社会だということを暴露しました。また、安倍政権というのは結果的には産業構造改革に失敗した政権だということも明らかです。けれども、政権に対抗する勢力はそれに輪をかけて守旧派であるのも事実であり、希望のありかは極めて限られています。政権に意欲を示す人材の中に、少しでも産業構造改革への志があるのかどうかは、重要な見極めポイントになると思います。

<関連記事:コンビニで外国人店員の方が歓迎されるのはなぜか?

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロ中、ガス輸送管「シベリアの力2」で近い将来に契約

ビジネス

米テスラ、自動運転システム開発で中国データの活用計

ワールド

上海市政府、データ海外移転で迅速化対象リスト作成 

ワールド

ウクライナがクリミア基地攻撃、ロ戦闘機3機を破壊=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story