コラム

ポスト安倍の政局、政策面で求められる3つの論点

2020年08月27日(木)17時00分

3つ目は外交です。異常気象による災害に苦しむ日本とすれば、環境外交は急務です。トランプ政権が継続する場合は、TPP11と同じようにアメリカを外してでも環境外交を強く推進することへの期待があります。一方で、日本経済を再起動するためには、コロナ危機の世界の中で唯一、実体経済を回している中国は重要な存在となります。表面的には政冷経熱になるにしても、日中関係を実務的に連携させる姿勢は大変に重要です。

また韓国に関しては、北朝鮮がより強硬姿勢に転じるのであれば日米韓の連携による紛争抑止が必要になります。反対に、北朝鮮が軟化した場合に、中国や韓国との連携を強められては対馬海峡が緊張の前線になってしまい、日本の安全保障コストが激増します。現在の文在寅政権が相手では非常に難しいのは事実ですが、中期的な日韓関係の改善というのは、今後の日本外交の重要なテーマになると思います。

安倍首相継続も含めた今後の政権には、こうした論点においてどちらを選択するかだけでなく、選択の背景と理由を含めて責任をもって世論に対して説明する姿勢が期待されます。例えば、コロナ危機にあたって、全国の立場と東京の立場、経済復興の立場と感染抑止の立場がそれぞれ矛盾していましたが、これは考えてみれば当然です。

行政府というのは、そうした矛盾を前提として調整と決定の実務に責任を持つことが期待されている官庁です。そこから逃避するのは論外ですが、調整と決定をするだけでも不十分です。内閣総理大臣には、その調整や決定について世論に対して明瞭に説明する責任が求められるからです。

見えない場所で調整を行えば仕事が前に進む立場とは違って、いきなり世論に向かい合わなければならないのが総理大臣です。ポスト安倍に求められるのは、まず第一にその説明スキルではないかと思います。また、仮に安倍内閣のままで解散という場合も、政策の選択肢と説明スキルを中心とした統治能力を争点として、民意に正当な選択機会を示す必要が今こそ求められていると思われます。

<関連記事:コンビニで外国人店員の方が歓迎されるのはなぜか?

【話題の記事】
・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・韓国、新型コロナ第2波突入 大規模クラスターの元凶「サラン第一教会」とは何者か
・韓国、ユーチューブが大炎上 芸能人の「ステマ」、「悪魔編集」がはびこる


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

-日産、11日の取締役会で内田社長の退任案を協議=

ビジネス

デフレ判断指標プラス「明るい兆し」、金融政策日銀に

ビジネス

FRB、夏まで忍耐必要も 米経済に不透明感=アトラ

ワールド

トルコ、ウクライナで平和維持活動なら貢献可能=国防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story