コラム

コロナ「出口戦略」の鍵となる検査体制、どうすれば拡充できるのか?

2020年04月28日(火)14時30分

検査体制の拡充には「検査員の増員」と「検査キットの確保」の2つが必要 Brendan McDermid-REUTERS 

<アメリカでは各州が経済活動の再開を念頭に、検査体制の拡充に向けて動き出している>

アメリカ全土の中でも新型コロナウイルスの感染が最も拡大していたニューヨーク州、そして隣接するニュージャージー州でも、日々の新規入院患者数は明らかに減少してきました。また、最悪期には両州合わせると1日1000人を超えていた死者数も減っていますが、こちらは依然として両州併せて連日400人前後という厳しい数字です。

ジョージア州をはじめとする南部から中西部の州の中には、トランプ政権の設定したガイドラインを無視して、先週末からサービス業などの「再オープン」に踏み切るところも出てきています。ですが、ニューヨーク、ニュージャージーの場合は、とても今すぐオープンできる状況ではありません。これに加えて、少なくとも「新規入院患者数などの指標が14日連続で減少」という政府のガイドラインをクリアしないと、「先へ」進めることはしない、というのが両州の公式見解です。

そうではあるのですが、経済活動の再開問題は、両州でも大きな話題になっています。そのなかで、大きな「鍵」となってきているのが「検査の拡充」という問題です。例えば、ニューヨークのクオモ知事は、先週ホワイトハウスに乗り込んでトランプ大統領と検査拡充の問題を協議して、経済支援を取り付けています。そして、既に7500件の抗体検査を実施したり、PCR検査の対象を「医療従事者」や「営業認可業種の従事者」に拡大すると言明しました。

一方で、ニュージャージーのマーフィー知事は、この4月27日には「NJ(ニュージャージー)ロードバック計画」という工程表を発表しています。その中で、検査数の倍増を指示しつつ、徹底した「検査+追跡+隔離」を行うことが経済活動再開には必要な条件だとしているのです。

つまり、経済活動の再開は「新規入院患者数の減少」だけではダメで、感染が収束しつつあるということを「徹底した数の検査」によって確認することが必要だと言うのです。つまり「検査なくして経済活動再開はなし」ということです。

PCR検査拡充に苦労する日本

一方で日本の場合は、感染のピークを「できるだけ遅らせ」る一方、そのピークの「山をできるだけ低く」する作戦の途上にあります。また確認された新型コロナによる死者の数も、ニューヨーク、ニュージャージーと比べると極めて少ない数字で済んでいます。

ですが、日本ではPCR検査の拡大がうまく行かずに苦しんでいるようです。例えば東京都の場合、最新の2日間の数字を見ますと、

▼4月25日(土)検査数272人、陽性数72人
▼4月26日(日)検査数314人、陽性数39人

となっています。もちろん、この2日間は週末のため、検体の搬入数が少ない傾向にある特異日ではあると思いますが、検査数についてはこれまでの最高でも1日551人だったわけで、件数としては極めて限られています。安倍政権は、4月初旬に「1日2万件の検査体制」を実現する方針を公表していますが、全国でもその半分にも届いていません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story