コラム

千葉県の「タレント知事」だけでなく、地域防災で知事に期待されるリーダーシップとは?

2019年11月07日(木)16時30分

制度としてはそうなっているのかもしれません。ですが、そのような「国に依存し、国に期待する」という姿勢では、いま本当に必要とされる地域密着の防災体制は実現しない、そんな時代だと思います。そこで求められるのは、首長の、とりわけ都道府県知事のリーダーシップです。

例えば、2018年の西日本豪雨で甚大な被害を出した愛媛県の中村時広知事は、特にダムの緊急放流時の連絡不徹底で多くの犠牲を出した肱川(ひじかわ)流域の問題について、国に対して非常に強い姿勢で要望を行っています。中村知事は、国に対する要望を行うにあたって、同様に多くの土砂災害が発生した広島県との連携もしていますし、例えば肱川の問題については、国と県の共同でのプロジェクトにより、防災対策をスタートさせています。

千葉県の森田知事も、ここへ来て「もう災害の少ない県ではない」という言い方で、あらためて危機感を表明するとともに、防災体制における人員の強化や、遅れが指摘されている土砂災害警戒区域の指定促進を進めるとして、自らリーダーシップを発揮し始めたようです。

広域避難で期待される都知事の統率力

今回の台風19号では、東京の東部(江東5区)において、江戸川と荒川の氾濫に備えた「250万人規模の広域避難」がギリギリまで検討されたという問題も起きました。この問題に関して、もしも次回、台風接近の際に本当に広域避難を決断しなくてはならない場合は、公的交通機関を巻き込むことから避難指示を48~72時間程度前倒しで行う可能性もあります。

その場合「まだ風雨の来ない中での大規模な事前計画避難」を実行しつつ「空振りの場合の批判には耐える覚悟も伴う」という厳しい判断になると思います。これは5区の区長のリーダーシップでは動かないので、どう考えても都知事の統率力と発信力に期待するしかないわけです。来年の都知事選では、そうした能力と見識も争点としたら良いのではないでしょうか。

東京都ということでは、仮に東京五輪の開催中に大規模な豪雨災害もしくは、台風の接近という場合には、競技よりも人命を優先した迅速かつ前倒しの判断が必要となります。この問題も知事選の争点として民意に問いかけておく必要を感じます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インド製造業PMI、3月は8カ月ぶり高水準 新規受

ワールド

中国軍が東シナ海で実弾射撃訓練、空母も参加 台湾に

ビジネス

ユニクロ、3月国内既存店売上高は前年比1.5%減 

ビジネス

日経平均は続伸、米相互関税の詳細公表を控え模様眺め
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story