コラム

離婚後の共同親権は制度改定だけでは不十分

2019年10月08日(火)17時40分

国際カップルが離婚した際に一方的な連れ去りを禁止する「ハーグ条約」を日本は批准した JackF/iStock.

<両親の離婚後も、子どもが双方の家族から愛情を受けられるよう、制度とカルチャーの両面を変えていくことが必要>

日本の法務省は9月27日、離婚後も父母双方が子供の親権を待つ「共同親権」制度の是非をめぐる研究会を立ち上げ、議論を開始すると発表しました。河井克行法相は同日午前の記者会見で、この共同親権の問題について、「一定の方向性をあらかじめ定めているわけではない。実り多い議論が行われることを期待する」と述べたそうです。

この制度ですが、このコラムでも再三にわたって取り上げた「ハーグ条約」、つまり国際離婚における子どもの一方的な連れ去りを禁止し、連れ去りが発生した場合は子どもを元の居住国に戻すことなどを定めた条約を日本が批准したことで、改めて必要になってきた制度であると言えます。

現在の日本の民法では、この共同親権制度がありません。そのために、国際結婚が破綻した場合に、日本で離婚裁判を行うと単独親権という判決が出ることから、欧米圏出身の配偶者の場合は、そもそも日本での裁判に応じないという実情があります。その結果として、外国人の側の親は自分の国における離婚裁判を強硬に主張して、日本人の親に不利な結果を引き出す傾向があります。

共同親権制度が導入されれば、離婚後に母親が単独親権を獲得した場合に、父親の面会権が十分に保障されないとか、反対に父親が養育費の支払い義務を怠るといった問題が、改善されるケースも増える可能性があります。

制度への社会的な理解が必要

ですが、この問題、制度だけを用意してもダメだと思います。離婚と親権、面会権などを取り巻く、社会的な理解を変えていかなければ、制度だけを変えてもうまくいかないからです。

1つは、共同親権という制度への社会的理解をどう進めるかという問題です。共同親権というのは、離婚後の子どもについて、例えば平日は母親で、週末は父親であるとか、通常は父親だが夏休みは母親といった取り決めをして、子どもは双方の親の間を行き来するという制度です。

社会的理解というのは、ある子どもの家庭が、そのような選択をした場合に、学校や子どもの友人の家庭などが、そのことにしっかり理解を示すことが必要だということです。共同親権の下で育てられている子どもが差別されたり、誤解を受けたりするようなことがあってはなりません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中協議で香港民主活動家を取り上げ、トランプ氏が示

ワールド

パキスタン、インドの無人機25機撃墜 印もパキスタ

ワールド

ラホールの米総領事館、職員に避難指示 印パ双方が攻

ワールド

ロシア「3日間停戦」宣言発効、ウクライナ北部や東部
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story