コラム

児童相談所と警察だけじゃない、児童虐待の防止策

2018年06月28日(木)18時50分

共同親権制度があれば虐待の早期発見、抑止にもつながる utah778/iStock.

<離婚後も双方の親権を認める共同親権制度を日本は採用していないが、児童虐待を抑止する効果も期待できるのではないか>

覚えたばかりのひらがなを使って「おねがいゆるして」というメモを残して亡くなった東京・目黒区の5歳児のニュースの衝撃は今でも続いています。現時点では、児童相談所の権限を強化するとか、転居時の引き継ぎを厳格にという議論がされています。また、警察との連携を強化せよという声もあります。その通りだと思います。

ですが、今回のような事件の再発を防止するには他の制度上の対策も検討するべきだと思います。一つは、離婚後の共同親権の問題です。離婚後の子どもに対する親権について、日本では民法上規定がなく、現時点では不可能とされています。つまり親権を得られなかった側の親は、離婚によって親権を奪われてしまうのです。

これに対して、父と母が共同で親権を持つという制度は、欧米や中国では定着しています。どのようにするのかというと、離婚時に協定を結ぶことで「(1)平日は一方の親、週末は他方の親」であるとか「(2)通常は一方の親、夏休みなどにまとめて数週間は他方の親」というように、時間を区切って双方の親が監護権を行使するというものです。

例えば、(1)を選択する場合は、子どもの負担にならないように、離婚後の両親は比較的近い距離のところに居住するように、裁判所から命令されることになります。今回の目黒区のケースでは、亡くなった女児は実の父親のところへ行きたがっていたというメモも残しており、仮に共同親権制度があって双方の親のもとを行ったり来たりしていれば、虐待の早期発見にも抑止にもなったかもしれません。

今回の事件とは別の問題ですが、国際結婚が破綻した場合に、日本人の親が一方的に子どもを日本に連れ帰った場合に、外国の親から告発があると「ハーグ条約」に基づいて「日本の裁判所が日本国民である子どもを外国に強制的に移送する」という屈辱的な制度が運用されています。

もちろん、逆のケースもあるので、ハーグ条約そのものを否定するつもりはありません。ですが、日本の法律が「共同親権を認めていない」ために「日本の法律に基づいた離婚裁判は絶対に応じない」という外国人親が圧倒的に多いことを考えると、共同親権制度を日本が頑固に否定し続けることで失うものは大きいと考えられます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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