コラム

アメフト悪質タックル問題に見る、日本の指導者の「弱さ」

2018年05月24日(木)15時00分

今回の選手の会見、監督コーチの会見に如実に現れたのは、罪を認める強さ、認められない弱さ、謝れる強さ、弁解する弱さということです。では、罪を認め、謝る強さは普遍的な善かというと、そこに過度の優越感があり、謝れないことを虫けらのように批判して平然としているようでは、それは強さかもしれませんが、やはり仲間として褒められたことではないようにも思われます。

ですから、一概に「弱さ」は良くないから克服すべきだとか、「強さ」は良いことだから伸ばすべきだという単純化はできません。

ただし、私なりに日米にわたって官民の様々な組織、また様々な段階の教育現場などを見てきた経験からしますと、教師や管理職、つまり指導者やリーダーというのは、「強さ」という資質を持ち、さらに指導やリーダーシップを成功させるスキルを持っていることは、やはり必要だと思います。

今回の日大アメフト部の問題が、日本社会において大きな関心を呼んだのは、同じような事例が社会の様々なところに見られるからであり、その結果として、多くの若者や学生生徒が深く傷つけられているからです。

そして、その多くの場合は、指導者や管理者に向かない「弱い」資質を持ち、なおかつ指導や管理のスキルも持たない人間が、年長であるとか、勤続年数が長い、組織内政治に勝利したといった理由で、指導や管理の高い地位に就いていることで起きたのだと思います。結果として、脅迫の手段を使って人間を隷属させ、多くの人間を苦しめ、組織のパフォーマンスも破壊しているのです。

一方で今回の事件の原因だとして「勝利至上主義がいけない」という批判がありますが、これは違うと思います。「弱さ」が権力化し、脅迫による隷属が強制される組織では、パフォーマンスは著しく下がっているのが通常であり、本当に勝ちたければ正しい指導がされるべきだし、何よりも真の勝者に対して失礼だからです。

全体が成長している時代ならまだ許容されたのかもしれません。ですが、現代は大きな変革期です。変革に際してはリスクを取った果断な判断が求められます。一方で、変革を見送る部分は厳しい撤退戦になります。そのような時期に、「弱さ」の資質を持ったリーダーを据えては、そのリーダーも含めて全員が不幸になります。教育者も同様です。

この点において、年功序列制度による管理者の抜擢というシステムは破綻していると言わざるを得ません。また教育者の養成においても、人間としての強さの資質を持ち、なおかつ必要なスキルを習得した人材を配置するノウハウが求められると思います。


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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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