コラム

銃規制の代わりに透明バックパックを強制された高校生たちの怒り

2018年04月03日(火)17時00分

今回の措置は、2月14日の乱射事件の実行犯がバックパックとボストンバックに入れて簡単に重火器を持込めたという事実への反省を込めたというのですが、生徒たちの反応は様々です。

一部の生徒は、「安全のためには仕方がない」と受けて入れていますが、多くは否定的で、
▼「このバックパックは、1ドル05セントの価値しかない(として1ドル05という赤い値札を貼っている生徒がいました)が、多分自分の命はそれより軽い」
▼「プライバシーが侵害される。我々は安全である権利があるだけで、不愉快なことを強制される理由はない」
▼「こんなことを強制するのは銃規制ができないということを言っているのと同じ」
▼「銃を持ち込みたい人間は、ほかの手段を考える。透明バックパックの効果はない」
▼「学校が刑務所になった」
▼「透明バックパックで安全確保なんて幻想だ」
といった声が出ています。ちなみに、この透明ビニール製バックパックは、アマゾンでは類似のものが9ドルから24ドルで売られています。多くのメーカーが出しているということは、全米で同様のニーズがあるのでしょう。但し、高校生の場合は、分厚い教科書を持ち歩く(平均500ページのA4より大きな上製本が主流)なので、2週間も持たないという声もあります。

高校の所属する学区の教員委員会では、この透明バックパックの義務化に加えて、偽造の難しい新しい学生証を用意するとか、金属探知機の設置も進めるとしていました。

そんな中で、あらためて高校生たちの怒りと不満が拡大しているのですが、残された時間はあまりありません。というのは、今年は選挙の年であり、中間選挙では連邦下院を民主党が取り返すかどうかが大きな焦点になっていくからです。

下院選は小選挙区制で、各選挙区の特質がハッキリしています。そして、銃規制論というのは都市部に集中しており、中西部や南部の地方では銃保有派が圧倒的です。ですから、民主党が現在獲得しつつあるモメンタムを生かして11月の選挙で勝利するには、選挙戦が本格化するにつれて銃規制論議を封印しなくてはならないのです。

現在、大差で過半数を維持している共和党の議席を奪うには銃保有派の地域でも勝たねばならず、銃規制論議は邪魔になります。その意味で、政治家がイニシアチブを取れない以上、この高校生たちはまだまだ自分たちが運動の先頭に立たねばなりません。この「透明なバックパック」は、彼らに対してそのための怒りのエネルギーを注入するだけかもしれません。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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