コラム

2020年のセンター試験改革は何のためなのか?

2018年01月18日(木)15時30分

例えば国語ですが、2020年へ向けた「プレテスト」には、従来はセンター試験の国語の「1問目」に必ず出ていた「抽象的な論説文」の読解問題が消えており、その代わりに「高校生の生徒会活動」に関する様々な資料を読み込む問題が採用されています。

高3の1月には多くの生徒が18歳で、少なくとも選挙権のある有権者になっているのに、「いつまでも子供扱いするのか」という違和感を持ちました。

というのは、現行の「センター試験」の問題というのは、偏差値でいえば55から65ぐらいの学生でキチンと差がつくように設計されているわけです。ですから、かなり勉強熱心な学生を集める大学での選抜や、一次から二次への選抜(足切り)に使えるようになっています。ですが、偏差値で45から55ぐらいのゾーンに関しては、比較的ダンゴ状態になってキメ細かく差を見るのが難しいように思います。

ところがこの新テストでは、「45から55」のゾーンの学生をメインターゲットにしており、その中での学力差や、科目の得意不得意が見えてくるような仕掛けになっている、そう考えると納得ができます。

鳴り物入りで導入される「英語における外部テストとの置き換え」にしても、ガチンコの英語力が試されるTOEFLやIELTSだけでなく、ノンネイティブのコミュニケーション力を評価するTOEICや、今回の「新テスト」に合わせて民間で開発される国内専用の資格試験なども許しているようで、この点でもまさに「45から55」のゾーンにターゲットを絞っているように見えます。

つまり地方の国公立など、「統一テスト」で「しっかり差がつくのを見たい」というニーズに応えるための変更、今回の「新テスト」いや「大学共通テスト」というのはそのための変更だと理解するのが、一番筋が通っているように思います。

そう考えると、授業が間に合わないとか、部活に影響が出るという高校の声に配慮したということも納得ができます。いわゆる受験エリート校は、今回の「新テスト」のメインのターゲットではないということだからです。

つまり、本当のグローバル化とか、最先端の科学技術水準から遅れないための教育ということと、今回の「2020年の入試改革」は別だということです。そう考えると、「ちょっと待て」と言いたくなります。国際化にしても、科学技術の水準にしても、全体の底上げがあって、初めて先端のレベルも上がって行くからです。

そう考えると、高校のカリキュラムも歯を食いしばって全体の底上げをしていかなければなりません。その点から考えると、今回の「新テスト」はホンモノの記述式ではないし、理科は最大2教科だけだし、国語は知的刺激が足りないし、数学の難度も足りないし、国全体の「教育の志」という意味では食い足りないものを感じます。


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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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