コラム

小池都知事の「希望の党」、原発ゼロ政策への疑問

2017年09月28日(木)13時40分

そうなると、「核の平和利用はしない」という立場を言いながら、プルトニウムを保管し、あるいは再処理して蓄積する、その一方で「プルサーマルでMOX燃料を燃やすこともしない」し「ブリーダー(高速増殖炉)の開発にも消極的」ということでは、これは大変な疑念を生じてしまうのです。

つまり、余剰プルトニウムが軍事転用される可能性を指摘される危険があるということです。少なくとも、国際社会から「疑いの目」で見られる可能性があります。具体的には、北朝鮮に対して「核不拡散の立場」からの批判はできなくなりますし、最悪の場合に西側の多くの国から原子力協定の更新時に厳しいことを言われる危険も出てきます。

少なくとも、安倍政権について言えば、非核三原則を尊重し、核不拡散という国際社会の動きにおいてむしろ主導する立場を取って来たわけで、こうした国としての根本姿勢に関しては、「希望の党」としても同じように継承すると明言する必要があると思います。

もう1つは、同時に小池氏は「ゼロ・エミッション(排出ガスゼロ)」への工程も示すとしている点です。表面的には「反原発」と「ゼロ・エミッション」は同じような環境保護政策として、耳に心地よく響くかもしれません。ですが、この2つを両立させるのは難しいのです。矛盾する政策と言っても過言ではありません。

2011年の福島第一原発の事故以降、原子炉の稼働を最低限に抑えている日本は、化石燃料への依存を続ける中で、排出ガス抑制のロードマップ達成からは程遠い動きを続けています。原発ゼロと排出ガスゼロの両立というのは、気が遠くなるほどの難しさがあるわけです。

方法はないわけではありません。例えば、再生可能エネルギーの発電を最大限にすることが考えられます。全国の遊休地をソーラーファーム化し、景観は多少犠牲にしても風力発電所と地熱発電所を自然の中にドンドン建設するという方法です。これに加えて、大量の電力を必要とする産業、つまり20世紀的な製造業はほとんど諦めて、知的先端産業に集約したエネルギーに関する高効率社会にすることも必要です。

これは教育から産業、国土計画に至る大きな変更になります。国の成り立ちを根本の部分から変えなくては、実現できないレベルのものです。工程を示すというのであれば、是非そこまで踏み込んだ計画を期待したいと思います。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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