コラム

米イージス艦事故と映画『バトルシップ』の意外な共通点

2017年06月20日(火)15時10分

1つは、「チープ・キル」という脅威の問題です。「チープ・キル」というのは、例えば、2000年にイエメンで小型艦艇のテロ襲撃でUSSコールというイージス艦(今回の事故艦と同型)が大破した事件がありました。つまり、一隻8億ドル(約880億円)と言われる高価な軍艦を、廉価な民間偽装船で無力化できてしまうという脅威です。

今回の事件の場合は、悪意のある犯罪でもないし、衝突したのは大型船でしたが、少なくとも夜間に大型の民間偽装船が体当りすることで、この種のハイテク艦が無力化することを証明したのは事実です。海上自衛隊も同種の軍艦を運用している中で、戦略的な見直しが必要ないか、真剣なチェックが求められると思います。

2点目は、ステルス性という問題です。仮に事故艦が、何らかの任務を遂行中で、ステルス性能をある程度オンにしていた、例えば夜間なのに灯火を消灯していたという場合は、この種のステルス性を持った軍艦は、民間船舶から見て著しく視認性が悪くなるわけです。そうなると、作戦上はメリットとなるステルス性が、かえって自艦を危険に晒すことになります。

【参考記事】トランプがドゥテルテに明かした、北朝鮮核ミサイル開発への本音

仮にそうした危険性があるのであれば、平時には消灯を禁止するなどして、ステルス性をオフにさせること、仮にどうしても視認性を低めて航行する場合には、イージスの側に厳格な安全確認、衝突回避などの義務を課す必要があるように思います。

そんなことを考えれば考えるほど、映画『バトルシップ』で、高価なイージスがエイリアンにやられてしまい、最後は年代物の「ミズーリ艦」で戦うというストーリーは笑えなくなるのです。

<訂正とお詫び>
20日掲載時に、映画『バトルシップ』の内容について一部誤った記載がありました。訂正してお詫びいたします。(21日12:00)

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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