コラム

中東諸国のカタール断交のウラには何がある?

2017年06月06日(火)15時00分

2つ目としては、カタール首長家は「カタール国内の反体制派」を懐柔するために、イスラム圏の幅広い「反体制グループ」に薄く広く援助をしているという噂があります。自分たちが地元で革命を起こされないように、イスラム圏全体の過激な運動に理解を示すポーズを取って一種の「保険をかけている」というのです。

一部には、その資金は回り回って「アルカイダ」や「IS」にも行き渡っているという説もあるぐらいです。これに対して、サウジやエジプトが「許せなくなった」ということはあり得ます。

3つ目としては、アメリカの影響という問題です。トランプ大統領は、G7サミットに行く前にサウジを「最初の外遊先」に選び、そこでGCC会議にも出席しています。その際に、トランプ大統領は「イランとIS」を究極の悪玉として認定し、敵味方の区別をハッキリするように迫った結果、態度の曖昧なカタールに対してサウジやエジプトが警戒感を強めたという可能性があります。

4つ目としては、トランプ大統領のGCC会議参加によって、一見するとサウジとアメリカの関係は強化されたように見えますが、可能性としてはトランプ大統領があまりにも「トンチンカン」な姿勢を見せてしまい、サウジとしては「アメリカには中東を仕切る能力はない」と判断された可能性もあります。

【参考記事】トランプの露骨なイラン包囲網に浮足立つイスラム社会

結果として、サウジやエジプトが「アメリカの意向を離れた暴走」を始めたというシナリオがあり得ます。特にサウジは、アメリカから巨額(1100億ドル=約12兆円)の武器購入を決めているので、これによる湾岸の覇権づくりを早速実行に移したのかもしれません。アメリカのティラーソン国務長官は「断交しないように」という調整工作をしたようですが、今のところは無視された格好です。

5つ目としては、この地域の特殊事情として「トラブルがあれば原油価格の上昇要因になる」ので、あえてトラブルを起こすことへの抵抗感が少ないということもあるかもしれません。

カタールの首都ドーハといえば、2022年のFIFAワールドカップの開催地です。2018年のロシアも多少の懸念があるわけですが、2022年についても、無事に開催ができるのか、政治的に微妙な情勢となってきました。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、日韓などアジア歴訪 中国と「ディ

ビジネス

ムーディーズ、フランスの見通し「ネガティブ」に修正

ワールド

米国、コロンビア大統領に制裁 麻薬対策せずと非難

ワールド

再送-タイのシリキット王太后が93歳で死去、王室に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 2
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任務戦闘艦を進水 
  • 3
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元に現れた「1羽の野鳥」が取った「まさかの行動」にSNS涙
  • 4
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 5
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 6
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 7
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 8
    アメリカの現状に「重なりすぎて怖い」...映画『ワン…
  • 9
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story