コラム

北朝鮮危機には「現状維持」以外の解がない

2017年04月18日(火)17時20分

ですが、もし北朝鮮が核開発を放棄すれば、政権の求心力が崩れてしまい、朝鮮半島の平和はかえって不安定なものになる危険もあります。また、国境を越えて混乱が中国に及ぶかもしれません。国民に対して堂々と核保有を宣言して求心力として利用してきた政権としては、メンツにかけてもすべてを放棄することには難色を示すでしょう。

また、核問題だけでなく、拉致、テロ、武器・麻薬の密売、偽札製造など、国家が主導する形での大規模な犯罪を続けてきた責任もあります。何よりも自国民に対する非人道的な統治を続けたことを考えれば、戦争犯罪、あるいは人道に対する犯罪に関する捜査と処罰も必要です。ですが、現政権の主権を認める中では、そんなことは不可能でしょう。

一方で1994年の核危機に際しては、核弾頭の製造が容易になる黒鉛炉を廃棄させる代わりに、軽水炉技術を供与して重油などエネルギーの支援を行うという枠組みで、金正日政権のメンツを立てた前例があります。ですが、この方法はあくまで核開発の初期段階だから可能だったもので、すでに数回の核実験を成功させている現政権には当てはまりません。

そう考えると、人道犯罪への捜査も不可能、完全な核兵器の廃棄も無理、従ってIAEAやNPTへの復帰も無理、またエネルギー援助で和解も不可能ということになります。

【参考記事】北朝鮮に対する軍事攻撃ははじまるのか

人道犯罪への捜査は、政権を交代させなければ不可能であり、その場合は戦争を覚悟する必要があります。仮に平和的に政権交代ができたとしても、38度線を唐突に開けてしまえば、十分な国力のない韓国が破綻国家の北朝鮮の復興を背負い込むことになり、これもまったく非現実的です。

つまり、この危機に出口はないということになります。では、当面の落とし所はと言えば、危機を沈静化しつつ、危機を抱えて現状維持ということになるでしょう。具体的には、

「核実験はさせない」
「長距離弾道ミサイルの技術も完成させない」

という2点をレッドライン(限界となる一線)として、米中が主軸となって圧力を加え続けるしかないことになります。そして、現在のトランプ政権の平静さを見ていますと、その覚悟があることは感じられます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

シカゴ連銀公表の米失業率、10月概算値は4.4% 

ワールド

米民主党ペロシ議員が政界引退へ 女性初の米下院議長

ビジネス

英中銀が金利据え置き、5対4の僅差 12月利下げの

ビジネス

ユーロ圏小売売上高、9月は前月比0.1%減 予想外
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの前に現れた「強力すぎるライバル」にSNS爆笑
  • 4
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 5
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 6
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 7
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 8
    ファン熱狂も「マジで削除して」と娘は赤面...マライ…
  • 9
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 10
    コメ価格5キロ4000円時代を容認? 鈴木農相の「減反…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story