コラム

都知事選に都政の選択肢はないのか?

2016年06月21日(火)17時00分

 反対に、仮に東京が「一極集中が進んでもいい」から、日本経済を牽引する、つまり現在より経済成長を加速させる選択肢もあります。この点に関しては、従来型の製造業などは、空洞化が加速しているわけですし、残った「本社事務機能」でも、特に多国籍化した企業に関しては国外脱出をする準備をしています。

 ですから、そのトレンドをひっくり返すには、相当なことをやらなくてはダメです。要するに東京の仕事の進め方を改革して、生産性を高めるのです。例えばシンガポールと香港の金融センター機能を「奪い取る」ためにできることは何でもやるといった成長路線を訴える立場があってもいいと思います。

 以前にこのコラムのテーマにしたように、大阪圏の経済の衰退が著しい中で、こうした金融センター機能、具体的に言えば国際的な会計と法務の事務機能を大阪が担うべきだと考えてきました。それこそシンガポールや香港の地位を奪うという考え方です。

 ですが、大阪で叫ばれていた改革の方向性は、いつの間にか「リニアを引いて中央官庁を誘致する」という、「親方日の丸」経済へ依存する考え方に後退しています。仮に大阪がやらないのなら、あらためて東京がやるべきだという考え方もあるでしょう。

 その場合、いわゆる「植民地租界」的な、つまり「ここでは英語が通じます。外国人も困りません」という「屈辱的な特区」ではダメです。やるのであれば本気で日本の組織と人材と資金に国際競争力をつける方向性が必要でしょう。

【参考記事】大阪は「副首都」ではなく「アジアの商都」を目指せ

 2つ目の選択肢は、東京の高齢化がある段階を越え、高齢者を支えていくために過去の蓄積を吐き出さざるを得なくなった場合に、財政破綻を回避するその方策に注目するという考え方です。

 これは1つ目の選択肢にも絡んできますが、このまま無策で進めば、東京への一極集中は止まらず、その一方で生産性の低迷と空洞化のために東京の経済成長は思うように好転しない、その間に徐々に人口は高齢化し、ズルズルと財政が悪化していくことになります。

 そうならないために、仮に東京の拡大が止められない一方で、しかし東京の生産性は劇的には改善しないのであれば、何らかの歳出の抑制をしなければなりません。社会保障上の給付を減らすのか、自治体組織を縮小するのか、ハコモノの建設やイベントの実施をカットするのか......。或いはそうした歳出抑制をしないで、格付けが下がって金利が上がっても地方債を出し続けるのか......。10~20年単位での東京の財政施策も争点にしなくてはいけないと思います。

 決して明るい未来が待っているとは言えないこの大都市には、政策と無関係のところで知事の去就や、知事候補の人事を面白がっているヒマはないのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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