コラム

「特別警報」制度には見直しが必要では?

2015年09月11日(金)17時35分

 まず1点目として警報が遅かったということがあると思います。線状降雨帯による尋常でない豪雨の発生が2日前に予報されていたのに、その予報が生かされていないと言うしかありません。

 2点目には警報の対象が曖昧ということです。「特別警報」の定義としては、生命の危険が迫っているような深刻な危険が「府県単位」で発生しているということで、例えば2014年8月の広島での豪雨災害の場合は適用されませんでした。一方で、今回の、特に茨城県常総市での河川氾濫に関しては、反対に「全県単位の警報」だということで、危機感が希薄化したという面は否めないと思います。避難勧告にしても網羅的に20万人とか30万人という規模で出ていましたが、これも同じことです。

 もちろん、土砂災害や河川の氾濫というのは「どこで起きてもおかしくない」という面があり、また実際に発生してしまったら逃げ遅れる可能性もあるわけですから、こうした尋常でない降雨の場合は幅広く警報を出すことになると思います。

 ですが、全県単位とか、30万人というようなことでは、どうしても個々人の危機感というのは希薄になってしまいます。避難勧告をどう真剣に受け止めてもらえるようにするか、工夫が必要と思います。例えば、河川氾濫に関しては、具体的には河川の流域ごとに、危険エリアをビジュアル化して動画で拡散するとか、河川の水位情報をリアルタイムで報じ、河川の状況を多くの固定カメラでモニターして、その映像を公開するなど方法は色々と考えられると思います。

 3点目としては、土砂災害の危険が強調された点です。線状降雨帯による大災害としては上記の2014年の広島での災害がありました。そのためか、今回の栃木、茨城の状況では「山沿いの土砂災害」への警戒が先行していたように思います。例えば10日の朝から昼ぐらいまでは、鹿沼市での土砂災害のニュースばかりが強調されており、河川の増水に関する注意喚起は不十分だったと思います。

 4点目としては、堤防決壊への危機意識が低かった問題です。10日の正午のNHKニュースが良い例ですが、この時点で既に一部河川では「越水」が起きていて、しかも「鬼怒川では水位の上昇が続いている」ということでした。これは大変なことで、このままではどこかで堤防が決壊する危険性があったわけです。越水と決壊では、氾濫水の流量と速度が劇的に異なり、即座に住宅や自動車に危険が迫るわけです。その「決壊」の危険性が10日の昼の時点では十分に警告できていなかったように思います。

 5点目はテレビ報道に関してです。近年のテレビ各局の災害報道は、以前とは少し変化して来ています。例えば(アメリカでは今でも名物ですが)台風の暴風雨の中で記者が「吹き飛ばされそうになって」報道するとか、大きな被害が出ると真っ先にジープやヘリで駆けつけるといったことは少なくなりました。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米大統領が中国挑発しないよう助言との事実ない=日米

ビジネス

中国万科、社債が約50%急落 償還延期要請

ワールド

香港高層住宅群で大規模火災、55人死亡・279人不

ビジネス

再送-第一生命HD、30年度の利益目標水準引き上げ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story