コラム

「移民が先か? 英語が先か?」という選択肢

2014年01月07日(火)12時23分

 現在の日本で「移民の受け入れ」を行うということは、制度を変え、あるいは日本に来ることにメリットのある政策を導入することで海外から人材が来やすくするということを意味します。そのようにして来日した移民はまず「日本語」を学習して日本社会に同化して行くことになります。

 一方で、日本社会では国際化のために「英語の導入」を進めています。なかなか難しいのですが、グローバル経済がどんどん進んで行く中で、最終的には日本も相当に英語が通用する社会になるかもしれません。仮に日本が相当に「英語の通じる社会」あるいは「英語で仕事ができる社会」になれば、英語話者の移民が入って来ることになります。その場合は、ビジネスや教育などの多くは英語になって、日本語というのは「地元の日本人が家の中で使う言葉」になり、TVには英語チャンネルと日本語チャンネルが半々ぐらいになる、そんな社会になってしまうかもしれません。

 そうなれば、日本語で伝えられている日本の伝統や文化は衰退の危機に直面します。では、そうではなくて、「英語ではなく移民を先」にすれば良いのかというと、必ずしもそうとも限りません。日本語がこの国の唯一の共通語だからといって移民に学習を勧めても、全員が習得できるとは限らない中で、自然発生的に「各国のお国言葉のコミュニティ」が生まれて行ってしまう可能性があります。日本の中に北京語のコミュニティや、ベトナム語、マレー語、ベンガル語、あるいはウルドゥ語といった言語が主として通用する地域ができてしまうというわけです。

 勿論、実際はこの3つがミックスしたような現象が広がる可能性があります。日本に来て日本語を習得する移民を含む日本語のコミュニティ、日本語を習得せず母国語で通す移民が形成する各国語のコミュニティ、そして英語の通用するコミュニティ、その3つが「ある程度の規模」できていくというような形です。

 ですが、この3つがバラバラに(各国語コミュニティというのは、更にそれぞれがバラバラになるわけですが)存在するようですと、社会の効率はかなり低下するでしょう。防災対策を含む行政サービスにしても、教育にしても、あるいは司法などの仲裁システムにしても相当にコスト高になりそうです。そう考えると、何らかの形で「中長期の方針」を考えておくこと、そこで「移民が先か? 英語が先か?」という議論を始めておくことが、必要だと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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