コラム

「円形交差点」の導入、効率と安全性への影響はどうか?

2013年02月08日(金)14時51分

 2月7日の毎日新聞(電子版)にあった「円形交差点:ラウンドアバウト型、飯田で運用開始 全国初、信号機撤去し改造」という記事は、私には大変に興味深く思えました。というのは、アメリカにはこうした「円形交差点」というのはかなりあって、色々な議論があるからです。

 この「円形交差点」というのは、要するに交差点の中央に「ぐるぐる回る周回路」というのがあって、各方向から来たクルマは一旦この周回路に合流して、その後で目的の方向に周回路から出て行くというもので、十字路だけでなく、五差路や六差路でも信号なしで「さばく」ことができるものです。

 元々こうした「円形交差点」については、日本の場合は「ロータリー」という呼称が一般的でした。また、この「円形交差点」が今でもたくさん採用されている英国では「ラウンドアバウト」という言い方が一般的です。一方で、アメリカの場合は今でも「サークル」とか「トラフィック・サークル」と言われることが多いようです。有名なものとしては、ニューヨークのブロードウェイとセントラルパーク・サウスの交わる「コロンバス・サークル」があります。

 その日本の「ロータリー」ですが、戦前から全国にあり、大規模交差点でのものもあれば、駅前のバスやタクシー乗り場の交通を円滑にする小規模なものも多くあったと思います。この駅前のものは、例えば東京ですと新宿駅の西口や国立駅などにあるわけですが、大規模なものの方は交通渋滞の原因になるとして撤去が進み、現在でも残っているのは旭川市の「常磐ロータリー」など数は少ないようです。

 例えば岡山県の岡山市にはロータリーの痕跡がたくさん残っており、柳川交差点、大供交差点、大雲寺交差点、清輝橋交差点など、今では交通は十字路になり信号も設置されていますが、昔のロータリー構造は原型をとどめています。柳川は特にハッキリその形が残っているので、今でも地元の人は「柳川ロータリー」と言っているんじゃないかと思います。

 岡山がいい例なのですが、どうしてロータリーがどんどん廃止されたのかというと、古い思想での運用だと、どうしても渋滞や事故の要因となったからです。これはアメリカでも同じで、特に私の住むニュージャージー州では、田舎道では昔ながらの「サークル」も残っているのですが、交通量の多い箇所では信号が設置されて実質的に「円形交差点」ではないような改造がされていることも多いのです。

 ですが、ここへ来てアメリカでも「円形」再評価の動きも出てきました。私の町内では、長い間朝晩の渋滞の原因となっていた「T字路」があったのですが、数年前にこれを「円形交差点」に改造する工事が完成し、以降このポイントでの渋滞は軽減され住民には好評です。ニュージャージー州では、他にも近年同じような改造の例が数件あるようです。

 何よりも、渋滞が軽減されるというのは利用者の利便性ということでも、エネルギーのムダや排気ガスの問題という観点からも良いことだと思います。また、今回の飯田市の例にあるように信号機を廃止することによる節電効果ということもあるでしょう。

 では、どうしてこの「円形交差点」の再評価が進んでいるのでしょうか? その再評価の背景にある「新しい思想」というのは何なのでしょうか?

 これは実は単純な話です。つまり、従来の「円形交差点」では「周回」と「流入」のどちらが優先関係にあるかが曖昧だったのです。例えば、信号で流入が制限されたり、五差路であるけれども、そのうちの2本は「幹線道路として交差点を貫いている」ために、その2本が他より優先されるとか、交差点ごとにルールが違っていて混乱の元になっていたわけです。

 一方で、英国の場合は「周回優先」ということが以前から確立していたことで、この「円形交差点」というのは上手く機能していたのだと思います。アメリカでの再評価(まだ派手な動きではありませんが)というのは、この英国方式を取り入れたもので、アメリカでもこの「新しい思想」での「円形交差点」のことは「ラウンドアバウト方式」という呼び方にして、イメージの悪い「サークル」とは区別するという動きも専門家を中心としてあるのです。

 私の町内の例では、とにかく「周回路優先」ということが住民に定着してから、一段と流れもスムーズになったように思われます。ということで、今回の飯田の例のことを、日本の伝統に従って「ロータリー」とは言わずに「ラウンドアバウト型」と呼んでいるのは正しいのだと思います。

 では、このまま日本でも全国各地でどんどん導入を進めて行ったら良いのでしょうか? 私はそれで良いようにも思いますが、4点だけ気になることを指摘しておきたいと思います。

 1つ目は、まずどんな交差点でも「ラウンドアバウト」にすればいいということではないと思います。明らかに交通量の多い、流れも速い幹線が貫通している場合は、そっちを優先するべきであり、周回路優先の「ラウンドアバウト」では交通量がさばけないように思います。私の住むニュージャージー州でも、複雑な五差路のうち貫通している幹線道路は「高架」に上げてしまって、「下の道」だけを「円形」で残した例もありますが、そうした対策も考慮されるべきでしょう。

 2点目は、シュミレーションをすると「ラウンドアバウト」は十字路よりも事故が少ないのだそうですが、ドライバーの心理としては「流れに合流する」というのには抵抗感がある人がいるように思うのです。新型の、あるいは英国式の「ラウンドアバウト」の場合は、流入側が躊躇するというのは、周回路優先と整合性があるのでそれでいいという思想で、その辺は正に設計思想に入っているのですが、仮にこの「円形」を普及させるのであれば、やはり「合流」の方法について免許取得者への教習なり、免許を持っている人への安全教室などで指導や啓蒙の活動をする必要があるように思うのです。

 3点目はもっと本質的な問題で、日本の場合は信号のない交差点では「左方優先」というのが道路交通法にはあるわけで、これを厳格に適用すると「周回側」ではなく「流入側」に優先権があるということになってしまいます。この点は、混乱を避けるために「円形」の場合にはどうするかということについて、必要であれば法改正をしてスッキリさせたほうが良いように思われます。

 4点目としては、この「ラウンドアバウト」でのドライビング感覚に関しては、右側通行なら「反時計回り」、左側通行なら「時計回り」になるわけで、国際間での戸惑いの原因になるという問題です。例えば、左側通行のために時計回りである英国のラウンドアバウトは、右側通行のアメリカ人のレンタカーでの旅行者には不評です。今後の日本は、一層の少子高齢化で、例えば右側通行の国出身のドライバーに移民してもらって人手不足を補うような事態になるかもしれません。その際には、キチンとした安全教育が必要になるでしょう。

 いずれにしても、この飯田市のニュースは、国際的なトレンド(そんなに大袈裟なものではないかもしれませんが)に則した動きだと言えるように思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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