コラム

日本の政治において政策はまったく重要でない

2021年10月01日(金)12時55分
岸田文雄自民党新総裁

自民党総裁に選出された岸田文雄は高市早苗を政調会長に選んだ Du Xiaoyi/REUTERS

<政策重視にそぐわない岸田新総裁の党人事。いつものことだ。有権者がイメージだけでリーダーを選ぶ国の政治の姿だ>

これは日本に限ったことではないが、日本が特に顕著だ。

こういうと、自称有識者、あるいは若い世代でいえば勘違い意識高い系の人々は、日本批判を行い、欧米に習えというだろう。

違う。日本がもっとも進んでいて(先に退廃していて)、欧米は後を追ってきているのだ。

まあそれはともかく、岸田新体制でも、改めてそれが明示的に現れた。

高市氏の処遇は、党の政調会長、きちんといえば、政務調査会長である。

高市氏を重要ポストで厚遇しなければならない。党の四役のどれかである。しかし、重要なポストは任せられないから、政調会長なら、まあいいか、ということである。

幹事長、選対委員長はありえないし、総務会長は重要だ。だから、政調会長なのである。

しかし、政策に関していえば、岸田氏と高市氏は水と油に近い。極右とかなりの左である。高市氏が政策に影響力を持てば、岸田氏のやりたい(少なくとも総裁選で打ち出した)政策はまったく実現できないだろう。

でも、いいのである。

政策はどうでもいいからだ。

選挙に政策は関係ない。

イメージがすべてである。岸田氏はいい人そうだ。菅氏と違って、やさしく、人の話を聞いてくれる。なら、まあいいか。

ということで、総選挙では無難に勝つだろう。

政策よりばら撒き合戦

これは自民党に限ったことではない。野党も同じである。

立憲民主党のアベノミクスの検証の報告書が2枚に過ぎなかったことを揶揄する議論が多かったが、真剣な政策の評価を国会議員の勉強会でできるはずもなく、そもそも議員たちだけでなく、有権者も誰も期待していないのである。アベノミクスに不満のあった人は、それをはっきりと批判してくれればいいのであって、それがはっきりしていればよい。

具体的な政策論争とは、選挙においては、単なるばら撒き合戦である。さらに、ばら撒き合戦で旗色が悪いと思えば、敵の評判の良いばら撒きを丸呑みして、さらにちょっとだけプラスアルファをつければいいだけなのである。

この習慣を批判しても始まらない。

この戦術は、過去の選挙において、非常に効果的であったから、年々、与党も野党も、この戦術を過激化してぶつけ合っているのである。

政策を重要だと思っていないのは、政治家ではなく、有権者なのである。

総理は感じのいい人であればそれでいい、と思っている有権者たちは、政策など興味があるはずがないのである。

*この記事は「小幡績PhDの行動ファイナンス投資日記」からの転載です

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

欧州委、内燃エンジン車販売禁止撤回提案へ 独メーカ

ワールド

タイ、カンボジアへの燃料輸出遮断を検討 米仲介後も

ワールド

次期米大統領専用機、納入再び遅延 当初予定から4年

ワールド

米南方軍司令官が退任、「麻薬密輸船」攻撃巡りヘグセ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story