コラム

中国共産党化する日本政治

2020年10月03日(土)08時50分

そういう風に見ると、携帯電話料金の引き下げという現政権の唯一の目玉政策も、違った姿を現してくる。

まず、第一に、首相が携帯電話料金の引き下げを携帯各社に圧力をかけるのは、憲法違反だ。財産権の侵害であり、民間企業のビジネスの自由を奪う行為である。携帯キャリア大手3社は、訴訟を起こし、最高裁まで争ったらよい。

もし、3社の寡占により、独占的な立場を利用して、価格を高く釣り上げている、というなら、公正取引委員会が法律に則って、処分すればよい。カルテル違反ならば、そういう法的処置を行わないことは、政府の不作為の罪になる。だから、それは政権公約として主張するものではなく、淡々と政府の仕事をすることであり、むしろ今まで何もしなかったことが非難されるべきことなのだ。

厄介極まりないテイストの悪さ

しかし、実際には、法的な違反行為はない可能性が高い。総務省の資料などを見てわかることは、日本では、有力携帯電話会社を、価格が高いにも関わらず、消費者が、そのサービスの高さなどの理由で選んでいる、ということだ。総務省の資料から引用されて、メディアで流布している数字は、最大シェアを持っている携帯会社の価格が高いということを示しているだけで、他の選択肢については考慮していない(もとの総務省の資料には分析はあるのだが)。日本でも、格安スマホという選択肢が多数の会社から提供されているにもかわらず、消費者があえて、高いが、通信品質が高く、いつでも何でも面倒を見てくれるショップが存在するという、手厚いサービスの会社を好んで選んでいるのだ。

したがって、携帯の価格の下落という圧力をかけるということは、それにより最大シェのキャリアがサービスを落として価格を下げる対応をすると予想されるため、実は、国民の望んでいるサービスを日本から消すことを政府が画策しているとも捉えられるのだ。これはまさに、中央の経済計画当局が市場や消費者のニーズをつかみきれず、失敗した社会主義体制経済と実質的に同じスタイル、いやテイストを持っていることを示している。

このテイストが問題なのだ。

日本学術会議の人事への介入についても、権力を行使し、人々が自主的に行動しているものに、介入すること自体を目的とする、いやそれを好むテイストがある、ということが問題なのだ。政治的にも、人々にとっても、何のメリットもない権力行使を行いたがる、というテイストの存在。それがもっとも恐ろしいことなのだ。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ウォルマートCEOにファーナー氏、マクミロン氏は

ワールド

米政権特使、ハマス副代表と近日中に会談へ=米紙

ビジネス

米、対スイス関税15%に引き下げ 2000億ドルの

ワールド

ロシア黒海主要港にウクライナ攻撃、石油輸出停止 世
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 5
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story