コラム

現在の経済政策は誤りの集大成

2018年11月26日(月)15時00分

政治目的でカネを注ぎ続ければ経済政策としては当然、間違い続ける bgkovak-iStock.

<日本の今の経済政策がすべて間違っていて、一向に修正もされない理由>

異次元緩和は、繰り返し指摘したとおり、日本経済に害の最も大きな政策だが、そのほかのこまごました政策もすべて誤っている。これほど誤りの集大成のような経済政策が打ち出されるのは珍しいが、その要因は何か。

第一の可能性は、経済政策に関する理解がすべて間違っているというもの。

これは繰り返し指摘してきたように、成長と景気とは別物であり、景気対策をすればするほど経済成長力は失われるにもかかわらず、長期的投資ではなく、目先の需要喚起ばかりをやっていることにより、すべての経済政策を間違うことになる。

第二の可能性は、現在の日本経済に対する理解が誤っているというもの。

これは、日銀がインフレを起こそうとして失敗した原因である。日本経済においては、デフレスパイラルというものは存在しないので、デフレスパイラルを解消しようとしても、ないものをなくすことはできないから、どんなに極端な金融緩和をしたとしても、それでインフレが起こることはあり得ない(かった)のだ。

ただし、ここでの日本経済の理解が間違っているというのは、インフレにならない原因の論争などという難しい話ではない。日本経済の景気が今良いのか悪いのか、という単純なことについての話だ。エコノミストは全員、現状は景気はとても良いという認識である。その持続力について意見の差はあるが、現状の景気が悪いという人はいない。そして、2012年末から現在まで、景気はずっとよいのであり、それも強弱こそあれ、コンセンサスだ。

それにもかかわらず、経済政策は景気対策、本来であれば人手不足によるコスト増加の過熱を緩和するために、景気を冷やすことすら必要であるにもかかわらず、過熱している景気をさらに過熱してオーバーヒートさせようとしている。これは誰がどうみても誤りだ。

誰のための経済政策か

第三の可能性は、経済政策は経済のために行っているわけではない、というものだ。

そうであれば、経済政策が経済政策として間違うのは当然で、なおかつ修正する必要はなく、間違い続けるのも当然だ。すなわち、政治的な意図で経済政策を行っているのであり、それに投機家たち、いまや機関投資家を含む投資家の90%は投機家であり、短期的な資産価格の上昇さえ実現すればよいので、彼らの強力なサポートを得るために行っているからである。

つまり、政治と投機の都合で経済政策が形成され、有権者と投機家が世論を作るから、当然、政治としての経済政策は経済を目的としなくなるのだ。

なぜ、現在の経済対策がすべて間違っているかというと、この3つの要素がすべて重なっているからで、第一と第二の誤りは修正される余地も可能性もあったのだが、第三の理由により、その修正インセンティブは消去されてしまったため、すべての経済政策がこれほど豪快に間違うことになってしまったのである。

*この記事は「小幡績PhDの行動ファイナンス投資日記」からの転載です

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

全国CPI、8月は前年比+2.7%に鈍化 市場予想

ワールド

仏で財政緊縮巡りデモ・スト、100万人参加と労組 

ワールド

国連安保理、ガザ停戦決議を否決 米が6回目の拒否権

ワールド

人民元相場、米国よりも欧州にとってより大きな問題=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story