コラム

ゴーンの何が悪いのか?

2018年11月20日(火)15時14分

<ゴーンによって日産が失った企業価値は50億円よりはるかに大きい。本当の罪は表には出にくいそちらのほうだ>

ゴーンが逮捕されたが、これまでの情報では、報酬約50億円分の有価証券報告書への過少記載ということのようだ。

そして、それは現金収入ではなく、別荘など完全に私的な住宅を会社に購入させ、それを無償で利用していた、ということらしい。

これは、もちろん、金融商品取引法違反であり、刑事罰が科されることになる可能性があると見込まれる。

ただ、これ自体はよくある話だ。

独裁的な経営者が会社を私物化し、社用者で私的な活動を行うことの延長線上にある。その規模が50億ということで、驚くほど大きい、ということに過ぎない。

となると、大騒ぎするほどのことか、傲慢な経営者がまたここにもいた、ということに過ぎないのではないか、という議論をしたくなってくる。

クーデターではない

実際、ネット上の「意識高い系」の人々は、ゴーン擁護とも取れるような意見をつぶやいている。さらには、陰謀説的に日産のクーデターだと吹聴する人々までいる。これらは、物事を本質からもっとも外れた議論であると考える。

逮捕から日産の動きの早さ、日産社長の会見の内容、姿勢から、日産は検察と緊密に連携し、すなわち、ゴーンとは逆の立場で組織的に動いてきたことが明白なことから、クーデター説を流したくなっているのだろう。

クーデターと呼ぶか、ガバナンスと呼ぶかはそれぞれの自由であるが、日産は日産であることを取り戻すために、日産としてゴーンという膿を出した、と私は捉えている。

50億円の実質的な報酬を株主から横領したことよりも、問題の本質は深い。

それはゴーンが日産を利用してルノーグループのトップに登りつめたということであり、そのために犠牲になった日産の企業価値の問題なのである。

日産を立て直した実績で、ゴーンはルノーグループの中で急速に出世していく。ここまでは、ゴーンの私的利害と日産の企業価値は連動していた。しかし、その後、日産の企業価値を高めることではなく、ルノーの企業価値を高めるために、あるいはゴーンの価値、立場を強めるために、日産をルノーのために利用することとなった。

それにより失われたものは50億円の比ではない。日産という企業価値、そして企業スピリッツも失われていった。

一方で、これは刑事罰として挙げるのは難しい。ビジネスジャッジメントルールで、個々のビジネス判断には裁判所は立ち入らないからで、そうなると、ルノー全体のためにも日産のためにもよいと思って、ルノーに有利、日産の利害を犠牲にしていると表面的には見える投資、意思決定を行ってきた、と主張することは可能だろう。株主訴訟でも株主側は勝てないだろう。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ステランティス、EV縮小で費用222億ユーロ 25

ワールド

ノルウェー公安当局、北極圏地域でロシアの諜報活動活

ワールド

中国、シンガポール航空ショーで軍事力誇示 長距離運

ビジネス

ドイツの12月輸出が予想以上に増加、鉱工業生産は減
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近したイラン製ドローンを撃墜
  • 2
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新世論調査が示すトランプ政権への評価とは
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 5
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 6
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 7
    「反トランプの顔ぶれ」にMAGAが怒り心頭...グリーン…
  • 8
    ユキヒョウと自撮りの女性、顔をかまれ激しく襲われ…
  • 9
    地球の近くで「第2の地球」が発見されたかも! その…
  • 10
    「エプスタインは悪そのもの」「悪夢を見たほど」──…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story